「これも土木」を発見する話(2)

「これも土木」を発見する話(2)「これも土木」を発見する話(2)

「これも土木」を発見する話(2)

(特非)シビルNPO連携プラットフォーム 理事
NPO法人州都広島を実現する会 事務局長
野村 吉春

はじめに

前回の第一話は、「これも土木というお宝探しのルーツ」のご案内をしました。そこで第二話では、まずは「これも土木」という「ビックリするお宝」をご覧に入れたいと思いましが・・・それを読者にご理解いただくには、もっと地に足の着いた展開が必要だろうと考えました。

つまり、前回は「お宝発見の方法論」を示した訳ですが、その原点となる「これが土木」って部分を押さえておくべきと考え、前回お示しした「6つのお宝発見のルーツ」の中から、今回はまず①の「見た目での認識」について、読者の皆様といくつかの考察を試みたいと思います。

■見た目での認識

筆者は、常日頃から土木は「見た目での認識」がたいへん重要だと思っています。つべこべ言う前に「まず、見た目」でしょ!

そこで、右図の「土木って何だという概念図」に示す、「これも土木!」あるいは「ここまで土木?」へのお宝探しに向かう前に、「これが土木」という、「土木の原点」は「今、ドウなっているのか?」、そこをしっかりレビューしたいと思います。

そこで、どちらも疑うことのないその原点は、「土木工事の現場」、そして「そこで働く土木作業員の姿」じゃないでしょうか。

■身近な工事現場より

下図は、3ケ月前の自宅付近での、道路掘削による埋設管路の工事のイメージ絵です。

土木作業員は、重機1ダンプ1、穴の中の作業2、若い現場担当が1の計5人。それに歩行者の誘導に1、交互交通のため旗振りが前方は70歳超えの男性1、後方は20代の茶髪の女性1(夜の仕事もありそうな風貌です・・)。この現場で若いのは現場管理者と交通整理員の2名だけ。

ともかく、この程度の小さな現場に全部で8人の作業員が働いており、「建設界の人手不足」が透けて見えます。しかも、今夏の炎天下で、大変キツイですよ。

■社会からの見え方

筆者は「土木だいすき人間」であると、土木学会誌の中でも述べているような調子なので、近所の工事現場で頑張っている人には、「暑いなかお疲れ様です」などの声掛けをします。

しかしながら、この世の中、皆が皆「土木だいすき人間」ばかりじゃないので、このような工事現場に対する市民社会の見方は、下表に示すような厳しい目線が伺えます。

現場への目線指摘されている内容参考文献
交通整理員への厳しい罵声車を待たせるとイライラするのか、後方の旗振りの女性に向けて、「バカたれ!」との罵声を発する声も聞こえます。これは筆者の体験です
無駄な公共事業との不満の声近隣では数少ない2車線道路なので埋設物が多く、周囲の宅地開発に応じ、何度も掘り起こして、「無駄ばかり!」との不満も聞かれます。これも筆者の体験です
土木作業員への軽蔑の眼差しとある現場では、子連れの女性が、工事現場の土木作業員を指差して、子供に「○○○くんも勉強しないとあんな作業員になるよ」と教えていた。この種の、教育上の指摘は多数ある https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question
土木を馬鹿にする若者たちとある現場では、私たちの作業を見ていた若者の一人が、「土方の仕事なんて誰にでも出来る、馬鹿がやる仕事だよ」との話声が聞こえた。建設メディア「施工の神様」より https://sekokan-navi.jp/magazine/9414#anc-0
世間一般での底辺職業ランキング新卒向け就活情報サイトにおける、「底辺職業ランキング」で、建設・作業員が何と「1位」に選ばれていました。下記のyoutubeにアップされています www.youtube.com

■で、それホンマか?

はっきり言って不愉快です。読者各位は「ふざけるな!」という思いをされるでしょう。
建設業界は重層構造なので、こうした「地方の小さな工事」は、大ゼネコンや中堅ではなく、地方の中小、あるいは下請による「末端の仕事」。なので、実感が湧かないかもしれません。しかし「こうした土木への認識」を、一旦は押さえておくべきでしょう。

これは、我々にとって遠い出来事に思えても、市民社会にとって「これが土木」とは、前掲の絵図に例示したような「土木工事」であり「土木作業員」の姿なのであって、先に申し上げた「見た目が重要」とはそのことで、市民社会には「土木が如何なるものか?」が、あの工事現場を通して透けて見えていると思われます。

■現実に、いま建設業はどういう状況なのか?

先月のWedge誌には「きしむ日本の建設業」~これでは国土が守れない~との副題のもと、建設業の特集号を刊行しています。
同誌を要約すれば、世の中「働き方改革」全盛の時代に、建設界は「深刻な人手不足問題」や「著しい高齢化」が押し寄せる中で、「旧態依然の業界構造」、「価格の安さと工期が優先され」、相変わらずの「社会的な地位の低さ」を指摘しています。

そんな中で、筆者が注目したのは「元請けの働き方改革で生じた付けを、全て下請けがカバーするのでは、職人不足と高齢化で、現場では悲鳴が上がっている」との厳しい指摘がなされている点です。
こうした現実を裏付ける、帝国データバンク調べの最新データによると、「2023年度上半期の倒産件数」は建設業がトップで、前年同期比の3倍と急増しています。

■「エッセンシャルワーカー」という定義

このまま建設業の倒産が続き、土木作業の担い手が無くなると、ドウなるのか? 先のWedge誌は多数の事例を取り上げ、「これでは国土が守れない」と、厳しい警鐘を鳴らしています。

ここで、先の工事現場の絵図の話題に戻りますが・・・。

今年の異常気象とも言われる真夏の炎天下で、「外気温40度での仕事はキツイ!」「土埃と排ガスにまみれ汚い!」「車が多くて危ない!」と、まるで3Kのモデル現場ですが、筆者の住む広島市安佐南区では、宅地開発が近年急増しており、上下水、電気、ガス等のインフラ供給も待ったなしで、このような小規模な現場力によって、地域の生活基盤が整えられてゆく訳です。

先般のコロナ禍における救急体制において、医師や看護師が「エッセンシャルワーカー(必要不可欠な労働者)」として社会的に注目されたが、他方で、暑さや寒さをいとわず対応する工事現場や、近年頻発する災害対応に尽力する現場作業員は、紛れもない「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる存在ではないでしょうか。

■小学生の「将来なりたい職業」ランキング

表記のトップ10では、男女とも「建築士」が10位に選ばれているが「土木」という職業は見当たらない。これは、「人気」以前に「知られていない」のかもしれません。

女子に限れば「医師」「看護師」などは、コロナ禍での対応映像などを見るとキツイ印象を受けるが、「やりがいのある仕事」に見えるかもしれません。 「エッセンシャルなやりがい」は外せない重要ポイントですね。

■土木の若手への期待

土木学会の企画委員会・若手パワーアップ小委員会も頑張っています。2019年には、「なぜ若者たちの土木離れが止まらないのか?」というテーマを掲げて、委員会のメンバーで調査を行った結果、右のグラフに示すように「認知度が低い64%」「働き方12%」「PR不足6%」といった課題を見出しています。

■改めて「これも土木」を目指し出発します

今回は「これも土木」じゃなくって、「これが土木」という話題に終始した感があるのですが、読者の皆様から「夢のある面白い話が一つも出なかった!」とのお叱りを受けそうです。

そもそも、「これが土木」っていう話なら、「橋梁とかトンネルやダム等のビッグプロジェクトを描いて欲しいなあ!」・・・そういうお気持ちは重々解った上での、筆者の地方での生活やNPO活動を通じて、市民社会から日常的に聞こえてくる「これが土木」をあえて提示しました。

次回の第三話からは、「これも土木」(ことと次第では「これまで土木?」)というレベルの宝探しをお約束します。今回、様々な面から深耕させて頂いた「これが土木」は、今後の展開への「課題」として、あるいは「問題提起」として受け止めていただければ幸いです。

■参考図 ; 土木界と市民社会の関係を考える

Ⓐは、「土木界も市民社会もともに分かっている(合意できている)」という話題の領域です。緑色の矢印が示す、「これが土木」という合意は、本コラムでは取り上げません。

Ⓑは、「土木界は分かっているが、市民社会は知らない」という話題の領域です。これは青色の矢印が示す、「これも土木」という本コラムで中心とするテーマです。

Ⓒは、「土木界は分かっていないが、市民社会は知っている」という問題の領域です。これは赤色の矢印が示すように、「これが土木」として一旦受け止め、今回のコラムでは、市民社会の意見を考察し、他方で土木界の問題点を検証しているところです。

Ⓓは、「土木界も市民社会も知らない」という未知の領域です。これは茶色の矢印が示すように、「これも土木」を超えた、「これまで土木?」への挑戦です。筆者は、来るべきVUCAの時代を生き抜くには、そういう発想こそが必要だろうと思います。

以上