日本の河川災害対策(4) 流域治水

日本の河川災害対策(4) 流域治水日本の河川災害対策(4) 流域治水

わかり易い土木 第35回 河川の話
日本の河川災害対策

アジア航測株式会社事業推進本部
社会インフラマネジメント事業部
大友 正晴

前回は「流域治水」の二つの治水対策についてでした。今回は三つ目の治水対策について勉強してみましょう。

  • 被害の軽減、早期復旧・復興のための対策

従来考えられていた治水では、河川管理者つまりお役所が担うものという認識がどなたも持っていたと思います。また、その対策も主に河川区域や氾濫域においての対策が行われてきました。しかし、近年発生する洪水による被害は甚大となることが多く、これまでの治水施設の能力を超える洪水が多く発生しています。

そのような洪水被害を減少させるためには、従来の河川管理施設等によるだけでなく、氾濫域や河川区域近傍の住民など、河川の流域に関係するすべての人が協働して河川の流域全体で対応していくことが求められるようになりました。その主な対策等について勉強しましょう。

(1)リスク空白域の解消(浸水想定区域・ハザードマップ)

河川災害に対応するためには、どこでどのような被害が想定されるかを知ることは重要なことです。国や都道府県、市町村では浸水想定区域やハザードマップなど地域に発生が予測される災害を地図などで明らかにしています。しかし、これらは大きな河川などに対する場合が多く中小河川等のリスク情報の提供を行っていない「情報の空白域」がある場合があります。近年の浸水被害ではこのような「情報の空白域」で多々発生しています。そこで、中小の河川や下水道、海岸までも含めて「浸水想定図」及び「ハザードマップ」の作成・公表を行うこととなっています。

◆ハザードマップとは
水害・地震・台風・火山噴火などの発生で予測される被害について、その種類・場所・危険度などを地図に示したもの。浸水想定図では、浸水が起こる地域や水深などが表示されています。国土交通省では、「ハザードマップポータルサイト」を開設しています。サイト内の「わがまちハザードマップ」は各市町村が作成したハザードマップを閲覧することができます。また、「重ねるハザードマップ」は、地図や航空写真上に、洪水・土砂災害・高潮・津波などのリスク情報、道路防災情報などを重ねて見ることができます。(右上:同サイトで閲覧したさいたま市の洪水ハザードマップ)自分の住む町のハザードマップを確認しては如何ですか。

(2)マイ・タイムラインの作成

河川の災害では、台風や大雨などの気象予報や、河川水位の上昇などの情報も入手可能です。前項のハザードマップなども利用可能となっています。流域治水では、住民一人ひとりが自らの地域の水害リスクの認識や避難に必要な情報入手・判断・行動することを求めています。マイ・タイムラインは、入手した情報から、住民一人ひとりの家族構成や生活環境に合わせて「いつ」・「何をするか」をあらかじめ時系列で整理した自分自身の防災行動計画のことです。国土交通省や自治体のホームページなどに、マイ・タイムラインの作成方法が示されています(右図は、国土交通省下館河川事務所HPより)。あなたも、作成してみてください。

(3)住まい方の工夫

住まい方の工夫としての対策について主なものを紹介しましょう。

●「まちづくり」による水害に強い地域への誘導

これは、都市マスタープランや立地適正化計画等の「まちづくり」により水害に強い地域への誘導を行うものです。先にハザードマップのことが出てきましたが、水害リスクの高い地域よりも低い地域に立地していくことで水害に強いまちづくりの実現を図ります。

 ●宅地の嵩上げなど

住民への浸水リスク情報(浸水想定図の推進情報など)、過去の水害などを踏まえた宅地の高さをかさ上げするなどの誘導を図るものです。その他、民家の止水・防水壁の設置や建物の防水などの改修方法等を考案してガイドラインとして公表しています。

 ●不動産関係団体への水害リスク情報の提供と周知協力の推進

不動産関係団体への水害リスク情報の提供と周知協力を推進することで、不動産の顧客の水害リスクの周知と対応意識を醸成するなどを行うものです。

(4)被災自治体の支援体制

 国土交通省では災害発生時に、各地方整備局等で編成されるTEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)を派遣しています。TEC-FORCEは、大規模な自然災害時に被害状況の迅速な把握、被害の発生及び拡大の防止、被災地の早期復旧などを行うために地方公共団体の支援を行う組織です。

また、官民連携による最新技術の活用や応急対応なども行います。(右図は国土交通省HPよりTEC-FORCEの支援事例)

ここまで述べてきました様々な対策を流域全体で講じていくことがこれらかの流域治水の考え方と言えます。さて、流域治水で住民一人ひとりの防災意識、防災行動が求められています。しかし個人それぞれが実際に行動できるかが重要な課題としてあります。これまでにも地域において実施されてきた防災活動があります。水防がそれです。また、実際に行動できるようにするために訓練も重要不可欠なものです。次回には、これらについて勉強したいと思います。