シビルNPO連携プラットフォーム 常務理事/事務局長
メトロ設計株式会社 取締役
田中 努

荒川は、わたしの住まいの比較的近くを流れており、河川敷の秋ヶ瀬公園は、わたしの子ども達が小さいときに、時々連れて行った場所でした。今年の夏、GooglMapsを見ていたときに、荒川の河川敷に

(遺跡のマーク)が付いた「土木学会推奨土木遺産」というのがあり、「何だ?これ!」と思ったのが「荒川横堤」でした。
本号の表紙を含め、写真は私の撮影ですが、紹介記事は下記の資料に寄ったもので、詳しくは、是非、そちらを見て下さい。
※私たちの荒川/令和元年12月26日/荒川上流河川事務所
https://seifu.sakura.ne.jp/chiribukai/20191226_watashitachinoarakawa.pdf
※仕組み・効果/荒川調節池工事事務所
https://www.ktr.mlit.go.jp/araike/jigyou/shikumi.htm
※なるほど!! 荒川第二・三調節池/荒川調節池工事事務所
https://www.ktr.mlit.go.jp/araike/pdf/pamphlet/naruhodo-v2.pdf
※土木学会/推奨土木遺産/荒川横堤
https://committees.jsce.or.jp/heritage/node/90
※広大な高水敷と横堤群を有する荒川中流部の洪水調節機能に関する研究/竹村吉晴・福岡捷二・吉井拓也/土木学会論文集B1(水工学)Vol.74/No.4/I_1387-I_1392/2018.
■荒川
荒川は、甲武信ヶ岳に発し、埼玉県と東京都を流れて、東京湾に注ぐ一級河川で、流路延長は約170km、流域面積は約2,900km2の大河川です。甲武信ヶ岳は、甲州(山梨)・武州(埼玉)・信州(長野)の県境に位置する標高2,475mの山で、荒川の他、笛吹川と千曲川の源流にあたる分水嶺でもあるそうです。
荒川の中流部は、川幅が1km以上と広く、鴻巣市と吉見町をつなぐ御成橋付近では2.5kmもあり日本一だそうです。それ故、高水敷(洪水の際に水没する部分の土地)の約60%も民有地があるそうです。

■横堤の仕組み・効果
横堤は、荒川中流部の広い川幅を利用した洪水対策です。
右図の左のように、普段は、普通の大きな川の流れですが、洪水時には、右図の右のように高水敷に溢れます。高水敷に横堤があると、流れは止められ、横堤と横堤の間で「遊水」となり、洪水の勢いを弱め、下流へ流れる水量を減らす効果があるそうです。
荒川中流部は、元々、蛇行が多く洪水時に氾濫する川でしたが、大正~昭和初期に、治水対策として河道の直線化と堤防の整備が行われ、併せて広い高水敷を利用する横堤が構築されました。
■荒川横堤の位置
荒川横堤は、下図の黒線ように、計27箇所に建設されました。
横堤は、本稿の表紙の写真のように、連続堤防から直角に河道に向かって延びているため、川幅の広い荒川を渡る橋長を短くできるので都合が良く、下図の赤線は道路橋、黒二重線は鉄道橋ですが、8箇所で道路橋のアプローチに転用されています。


■現在の調節池へのバージョンアップ
現在は、60%も民有地である高水敷への越水を抑え、かつ洪水調節の効果を高めるため、河道と高水敷との間に「囲繞堤(いぎょうてい)」を作って、高水敷だったところを調節池に変える事業が進んでいます。
冒頭の資料5つめの論文によると、横堤群だけでは、洪水の立ち上がりでの河道貯留率を高めますが、水位が増した後に起きる洪水のピークを低減する効果が小さく、下流での氾濫域は小さくならないようです。そのため、上図のように調節池に変えて洪水ピークをコントロールし、整備前の都内の浸水域内人口160万人を、1/3にする計画だそうです。

