シビルNPO連携プラットフォーム 常務理事/事務局長
メトロ設計株式会社 取締役
田中 努

表紙の「防災地下神殿」は、「首都圏外郭放水路」の終端の「調圧水槽」です。
「首都圏外郭放水路」は、右図のように、比較的低く洪水時に冠水することが多い「中川・綾瀬川流域」のほぼ中央の大落古利根川より東側の川から、溢れる前に水を取り込み、まとめて江戸川に放流する施設です。
本号の表紙を含め、地下神殿の写真は私の撮影ですが、紹介記事の内容と図は下記の資料に寄ったもので、詳しくは、是非、こちらを見て下さい。

※江戸川河川事務所/首都圏外郭放水路ウエブサイト
https://www.ktr.mlit.go.jp/edogawa/gaikaku/
※首都圏外郭放水路(彩龍の川 首都圏の安全・安心を守り続ける巨大地下放水路)
国土交通省関東地方整備局 江戸川河川事務所 パンフレット(A4判10頁)2020.3
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000812781.pdf
■首都圏外郭放水路の構造
「首都圏外郭放水路」の全体構造は、下図の通りです。
5つの川から、第2~5の4つの立坑に水を取り込み、トンネルで第1立坑に集め、「地下神殿」で調圧しながら、江戸川に放流します。

1)立坑
川の水位が上昇して越流堤の高さを超えると、自然に流入施設に流れ込みます。流入施設には除塵機がありゴミを除去し、立坑に流します。
各立坑の内径と深さは下表の通りで、スペースシャトルや自由の女神がすっぽり入るそうです。第3立坑と第5立坑は流入量が多いので、60mの高さから水が落下することによる底盤への衝撃を和らげるため、壁に沿って水を回し流すドロップシャフトと言う方式を採用しているそうです。
立坑は、まず、RC地下連続壁[右下図の紫部分](壁厚2.10m、第4立坑のみ1.70m)を築造し、内側に本体壁[右下図の赤部分](壁厚2.50~3.30m)を、地上から約50mまでを逆巻工法で、残り20mを順巻工法で、図中の○番号の順に施工されました。地下連続壁と本体壁は分離していて、地下連続壁は仮設構造として設計されたそうです。
※トンネル工学研究論文・報告集、第10巻2000年11月報告(31)「首都圏外郭放水路の立坑 とシール ドトンネルへの作用土圧 について」鴨下由男・酒井学・石村彰生


2)トンネル
5つの立坑は地下約50mの深さで、内径10.6mのトンネルで繋がれています。
地下空間を有効に活用して公共事業を円滑に進める目的で、3大都市圏を対象に2000年に「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法(通称:大深度地下使用法)」が制定され、地主の所有権は「地表から40m」または「建物の支持基盤の最深部から10m」の深い方までと決められています。したがって、地下50mのトンネルは、地上の土地利用に関係なく通過することができます。
トンネル掘削は、右の写真のように、外径12mちょっとの「泥水加圧式シールド工法」でした。
セグメントは、二次覆工の要らない平板型で、厚さ450mm、幅1200mm、分割数は多分9分割です。工区毎に様々な工夫がされていて、ダクタイルセグメントに鉄筋を配置してコンクリートを充填した「DRCセグメント」という合成セグメントや、内面にボルトボックスが無いセグメント継手の「水平コッター」や「ASジョイント」、リング継手の「ほぞ+プッシュグリップ」や「アンカージョイント」などが使われています。

3)調圧水槽と排水ポンプ 調圧水槽は、表紙の写真、いわゆる「地下神殿」です。ここは、トンネルを通って第1立坑から上がって流れ込んできた水の勢いを弱め、江戸川へスムーズに流すための施設です。具体的な役割は、①水の汲み上げと排水を安定したポンプ運転で行うこと、②ポンプを緊急停止させた時に発生する逆流を調節することだそうです。柱の1本(次ページの写真)に「定常運転水位AP+0.173」と「ポンプ停止水位AP-6.187」が表示されていましたが、この上下6.36mの間の水位で運用するようです。
※「AP」とは、Arakawa Peilの略で、東京湾霊岸島量水標の基準面零位だそうです。Peilはオランダ語で「基準面」の意味。明治初期に招いたオランダ人河川技師の指導で設定。ちなみに、TP(Tokyo Peil)というのもあります。東京湾平均海面で、日本の標準基準高となっています。TP±0m=AP+1.134mです。
排水ポンプは、航空機用に開発されたガスタービンを改造したもので、出力は国内最大級。タービンで強風を作り出し、羽根車を高速回転させ、その回転をポンプに伝えて排水する仕組みだそうです。直接モータで回さずに、空気力を介するのは、ポンプの急回転・急停止時に壊れないようにするためでしょう。50m3/sで排水できるポンプ4台なので、小学校の25mプールの水を1秒間で満水にできるそうです。
運転中の地下神殿で、排水の凄さを体感したいですね!

■首都圏外郭放水路の効果
外郭放水路は、2002年6月に第1~3立坑と排水機場の運転を開始してから、2024年10月までに、148回貯留を行い、内81回排水機場を稼働させ中川・綾瀬川流域の洪水を江戸川へ排水しました。この約22年間の洪水調節量は、計26,640万m3で、年間平均1,210万m3でした。
この水量は、東京の千代田区(約1,160ha)が、まるごと1m以上の水に浸かるはずだった量が、毎年この施設によって防がれている計算になります。
大き過ぎてピンと来ませんが、洪水調節の効果は、左下の写真のように一目瞭然で、右下のグラフでは、中川・綾瀬川流域の台風による浸水戸数を1/10に減らすことができています。スゴイ!!

