キラ☆どぼ④ 大沼乃里子さん

キラ☆どぼ④ 大沼乃里子さんキラ☆どぼ④ 大沼乃里子さん
大沼乃里子さん:国土防災技術株式会社技術本部・技術推進部(2024年2月1日取材当時)

こんにちは。大沼さんが以前に所属されていた「コミュニティ防災課」ってはじめて聞きました。どのような仕事をされているのですか?

地域コミュニティの防災計画である地区防災計画の作成などをお手伝いしています。社内でパソコンに向かっていることもありますが、ワークショップなどで地域の人と話をする機会が多いです。

私たち一人ひとりが防災に関して心がけるべきことはありますか?

災害を自分のこととして考えることがひとつ。ですから業務上では地区防災計画にしても、作って終わりにせず、避難訓練をやってみて、実態にそぐわないところは計画を見直すことを大切にしています。

ふたつめは「ダムや樋門などの土木構造物があるから絶対に安全」とは思わないこと。絶対はありませんからね。ただし、土木構造物には土木の英知が詰まっていて、なぜそこに構築されたのかを知ることが、災害時にどこのエリアがどうなるかを知ることにもつながるんですよ。そうしたことを地域の方と一緒に学んだり、ハザードマップを見ていただいたり、過去の災害に学んだりして、いつか降りかかる災害を身近に感じられるように、いざという時に適切な行動を選択できるように一緒に考えています。

それも土木なんですね!

土木によって構築された構造物の中で、安全に暮らしていくための支援をするのが防災です。だから、これも土木なんですよ!

大学時代は土木専攻だったのですか?

いえいえ、全く違っていて、教養学部国際関係論コースで国際協力のゼミに所属し、紛争後の平和構築について研究していました。国内紛争で和平協定が結ばれても、地域には対立構造が残ります。地域コミュニティレベルでいかに平和を構築するか。そこで重要だと感じたのは、地方政府と地域コミュニティがしっかりとコミュニケーションできる関係性でした。

実はそれは地域防災と共通しているんです。災害に強い地域コミュニティは、地域防災計画に基づいて安全なまちづくりを実現する自治体と、地域の資源を生かした住民主体の共助の取組が、有機的に連携することによって成り立つ。私の役割は、両者の良いコミュニケーションを実現するお手伝いですね。

紛争後の平和構築と防災。全く異なる領域なのに、共通項をきちんと見出して業務に活かしているなんて素敵です。行政と住民って時に対立することもありますが、大沼さんがその潤滑油になってくれるんですね。

コミュニケーターというのでしょうか。土木と社会、自治体と地域コミュニティをつなぎ、それぞれにいい方向を見出せるようにお手伝いしていきたいです。

良いコミュニケーションにとって大切なことは何ですか?

防災も平和も、安全・安心な暮らしのための行動を行政任せにするのではなく、まずは自分で自分の身を守り、地域住民同士で支え合おうという自助共助の精神だと思います。それが本来の地域のあり方ではないでしょうか。

約10年前に青年海外協力隊員として中米コスタリカで地域防災活動の支援に取り組んでいました(写真1)。コスタリカと比べて日本では行政主導の防災が当たり前という認識が強く、私たち一人ひとりの安全に対する主体性が掛けていると感じています。

いざというときに助け合い必要な支援を求められる関係性をつくるために、普段から何らかの形で地域コミュニティとつながっておくことが大切だと思います。

写真1:コスタリカの地域コミュニティでの防災ワークショップの様子(奥右から2人目が大沼さん)

印象に残る仕事を教えてください。

2018年に手掛けた、北海道から九州までのモデル地区における地区防災計画の取組支援の仕事です(写真2)。各地区における支援と並行して、他地区の事例を学び合う機会を企画・実践したところ、ある地区が他地区からヒントを得て、自ら活動の幅を広げることができるようになったのです。この時にも学生時代の学びを活かすことができました。

実は学生時代に東ティモールで、紛争により夫を亡くした女性を支援する国際協力NGOを立ち上げたんです(写真3)。国際協力では、「支援する側」が一方的に与えるだけでは、いっときの支援で終わってしまい、「支援される側」が本来目標とする生活改善に結びつかない。本当の国際協力は、自立できる仕組みと自立しよういう意識をつくることだと学びました。

地域防災も同じです。私たち外部の支援者が関与できるのは1年間にも満たないですから、私たちがいなくなっても、地域が自立して、自律的に活動を継続・発展させ、防災計画を改善していかなければ、いざ災害が発生したときに役に立たない。そのために少しは役に立つことができたと思える仕事でした。

写真2:北海道知内町でのワークショップの様子(写真中央で立って指を差しながら説明しているのが大沼さん)
写真3:学生時代に国際協力NGOを立ち上げ、東ティモールで紛争によって夫を亡くした女性を支援。その経験も今の仕事に活かされているそうです(写真はプロジェクト対象者との会議の様子)

土木構造物があるだけでは意味がなく、人が使いこなしてこそ価値があります。大沼さんの取り組みは、そんな人を地域で育てる仕事でもあるんだなと思いました。

そうかもしれませんね。社会関係資本という考え方があって、人と人との関係性が地域コミュニティの基盤を作っている。土木はインフラという社会基盤を作っていますが、基盤という点では、やっぱりこれも土木なんですね。

素敵なお話をありがとうございました(^^)