住民と多様な主体のつながりが生む楽しい防災~”みんなが助かる みんなで助ける”防災を~住民と多様な主体のつながりが生む楽しい防災

住民と多様な主体のつながりが生む楽しい防災~”みんなが助かる みんなで助ける”防災を~住民と多様な主体のつながりが生む楽しい防災住民と多様な主体のつながりが生む楽しい防災~”みんなが助かる みんなで助ける”防災を~住民と多様な主体のつながりが生む楽しい防災

住民と多様な主体のつながりが生む楽しい防災
~”みんなが助かる みんなで助ける”防災を~

江戸川みんなの防災プロジェクト
星野 渉

1961年の災害対策基本法制定以降、日本の優れた土木技術を基礎とした治水技術、耐震技術等を駆使したインフラの整備が進み、災害によって命を落とす人の数は大幅に減りました。ただ、災害による被害が無くなることはありません。特に、高齢者や障害者など、いわゆる避難行動要支援者が人口比に対して多く犠牲になっているという事実があります。私は、避難行動要支援者に寄り添った防災対策は、多くの人の命を救う可能性があると考えています。例えば、避難時の移動を考えるとき、車いすユーザーにとって避難しやすい道は、段差のないスロープです。これは、つまづきやすい高齢者やベビーカーの人にとっても避難しやすい道です。こうした考え方は国際基準や、災害対策基本法の基本理念にも通じており、考え方としては日本でも普及してきていますが、その実践は簡単ではありません。

災害時の困難を一番知っているのは自分自身です。それは障害のある方、高齢者、私のような健常者も含めて、皆さん何等かの困難を抱えています。防災に関わる自治体職員だけ、地域防災組織のリーダーだけでは、防災に関する知識はあっても、個人個人の困難に対する情報は限られています。そのため、当事者や当事者に近い立場にいる人たちとともに災害時に起こる困難を想定したうえで、自分たちにできることを考え続けています。これは、上述の避難行動要支援者に寄り添った防災対策を進める上でも大切なことであり、私が所属する団体の合言葉”みんなが助かる みんなで助ける”にも通じています。

全国ではそのような模索が各地で行われていると思いますが、今回は、筆者がメンバーとしてかかわっている”江戸川みんなの防災プロジェクト”の活動を紹介します。

1.江戸川みんなの防災プロジェクト(EMINBO)とは

江戸川みんなの防災プロジェクト(以下、EMINBOという)は、地震・水害等の災害リスクの高い地域である江戸川区の区民有志による非営利の任意団体です。メンバーには、障害当事者団体、保健士、看護師、防災に関わるコンサルタント経験者等、様々な立場の人が参加しています。また、江戸川区や区内の関連団体(助産師会、ろう者協会等)等と協力し合いながら、「みんなが助かる みんなで助ける」を合言葉に防災活動を続けています。

2.江戸川みんなの防災活動

江戸川みんなの防災プロジェクトでは、”自分自身の防災力向上のための取組み”、”協力し合える関係を平時からつくるための取組み”の二つが活動の柱となっています。以下、一部ご紹介します。

①つながる活動~防災ふらっとカフェ~

「気軽に防災について語り、つながる場」をコンセプトにした区民参加型のイベントとして”防災ふらっとカフェ”を開催しています。2018年に始まり、合計10回程度開催しました。継続的に参加してくださる区民の方もおり、メンバーとはすっかり顔見知りという関係の方もいます。このイベントの特徴として、他団体との協力開催が多いという点があります。江戸川区の助産師会や子育てサークル「江戸川ワーキングマザー交流会」、社会福祉法人等、様々な団体が伝えたいことをEMINBOがサポートする形で開催しました。区内の各種団体と一緒に開催することで、より具体的なニーズに対して語り、つながれる場ができました。

▲第4回防災ふらっとカフェ「子どもを守れる親になる~防災を日常仕様に~」の様子

②防災をじぶんごとに~防災アンバサダー~

新型コロナウィルス感染症の流行をきっかけとして始めたのが、当事者同士で防災知識を普及する取り組みである「防災アンバサダー」です。防災アンバサダーは、区民自身が防災の知識を得て、それを自ら発信し広めていくことを目指した取組みです。例えば、江戸川区のろう者協会では、まず、理事長等の一部の方が防災アンバサダー講習を受け知識を付けた上で、講習を受けた方が講師となり会員へ講習を行いました。このように区民自身が講師となり、実情を考慮した具体的な防災知識が普及啓発されることを目指して活動を続けています。先日、NHKがろう者協会の取組みを取材し、まとめてくれました。※

※参考:NHK取材記事 https://www.nhk.or.jp/shutoken/article/006/42/

▲ろう者協会による防災アンバサダー講習の様子

③防災啓発ツールの開発・発信~防災マンガ~

より分かりやすい形で区民に防災を理解してもらえるような取組みも進めています。そのひとつが「防災マンガ」です。例えば、2019年の台風19号の経験をもとに、みんなで大規模水害からの避難を考えたいと思い、”水害からの避難マンガ”を作成しました。監修者として、アウトドア防災ガイドのあんどうりすさんや雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・学術博士の荒木健太郎さんをお招きしたおかげもあり、専門的な知識を分かりやすく表現することができました。監修者のあんどうりすさんが解説記事も書いてくれました。※

※参考:「リスク対策.com」解説記事 https://www.risktaisaku.com/articles/-/32504

▲水害からの避難マンガ(一部抜粋)

3.活動を続ける理由

現在、EMINBOは多様なニーズに対して多様な人たちが集まり対話を続けることを試みています。マニュアルなどある訳も無く、大きな目に見える成果をあげ続けている訳でもありません。ただ、とても楽しいです。メンバーといると自然と笑顔ができます。防災活動においても気負わずに楽しむこと、日常の中で当たり前に防災に取組むことが出来るような活動を繋いでいきたいと考えています。私は、江戸川区在住時代にEMINBOに出会い、引っ越した後も続けています。それは、良い仲間に恵まれ、楽しい時間を過ごせるからであると最近改めて思いました。

4.おわりに

現代のインフラは多くの人を救ってくれました。ただ、これからはインフラに守られているだけの時代ではなく、ひとりひとりが防災を自分事として捉え備えることで命を守る時代に変わりつつあると感じます。当事者がそういった防災意識を持ち発信することにより、優れた土木技術を持つ日本の技術者たちであれば、ひとりひとりの想いに沿ったインフラを整備していくことも夢物語ではないと考えています。当事者は当事者だから出来ることを、土木技術者は土木技術者だから出来ることを、お互い精一杯取組んだ先に、災害による犠牲者ゼロとなる社会が来ると信じています。

連絡先:江戸川みんなの防災プロジェクトHP:http://edomb.wp.xdomain.jp/