インフラメンテナンスの地域協働の取組み
株式会社アイ・エス・エス
NPO法人 社会基盤ライフサイクルマネジメント研究会
高野輝浩・胡谷優・山口恵子・吉岡彩佳・橋本苑佳
1.NPO法人SLIM Japanについて
NPO法人 社会基盤ライフサイクルマネジメント研究会(通称 SLIM Japan : Society for Lifecycle Infrastructure Manegement) は、社会インフラに従事してきたエンジニア達が集まり2009年に設立した団体です。エンジニアの経験や知識を活かし、社会インフラに関する調査、研究開発および政策提言を行い、社会インフラ全体の利益の増進に寄与することを目指して活動してきました。その活動の一環として、2016年より「インフラメンテナンス国民会議」の運営に携わり、国民会議の目的の1つである〝インフラメンテナンスへの市民参画の推進″の一助になればと考え、地域住民が誰でも気軽に参加できるインフラメンテナンス活動をスタートしました。
2.地域協働活動のきっかけと思い
SLIM Japanは、産業界(民間企業)が主体となり官公庁・学校を巻き込みながら、インフラメンテナンスの重要性を分かり易く地域住民に伝えていくことを目指しています。
土木インフラは生活には無くてはならない存在であるにも関わらず、他の様々な社会課題と比較して、老朽化に対する地域住民の危機感が希薄であると感じていました。自身の所有する自動車や住宅のように、土木インフラに愛着を持ってもらうためには、地域住民自らが清掃メンテナンス等を行いながら土木インフラに直接触れることがきっかけになるのではないかと考えました。
そこで、地域住民が気軽に、そして安全に土木インフラに触れることが可能な構造物として、横断歩道橋を対象に清掃メンテナンスを企画したことが活動の始まりです。
一般的にインフラメンテナンスというと、専門性が求められ、高度な知識や技術を持った者でなければ従事できないと思われてきましたが、メンテナンスの中でも「点検や清掃」であれば、地域住民でも比較的簡単に関わることが可能であると考えました。
3.取組み事例
インフラメンテンナスの地域協働の取組みとして、3つの事例を紹介します。
①クリーンプロジェクト
クリーンプロジェクトとは、地域住民が日頃から利用している横断歩道橋を清掃メンテナンスするプロジェクトです。
本プロジェクトでは、メンテナンス清掃の前にビンゴやクイズを行い、参加者に橋やインフラメンテナンスの大切さについて楽しく学べる機会を提供しています。例えば、橋には雨水を排出するためにどのような構造が施されているのか、どのような状態だと雨水を排出できず、劣化に繋がる可能性があるのかを学んでもらい、その後、学んだことを実践してもらうための清掃メンテナンス活動に移ります。具体的には、排水溝に溜まったゴミや雑草、排水桝に堆積した土砂や落ち葉の除去を行なっています。
活動中には近隣の住民から声を掛けてもらうことも多く、「綺麗にしてくれてありがとう」「次回は参加するので声掛けてね」と聞くと嬉しい気持ちになります。参加した子供たちのアンケート結果では、「楽しかった、またやりたい」「橋に興味をもった」「排水桝の土と葉っぱを取り除いて雨水が通るようになって良かった」などの感想を得られました。また、活動中に発見した路面舗装の損傷など歩行者にとって危険な箇所は管理者に連絡し、後日修繕された所を目の当たりにすると活動の意義を再認識します。
②自由研究講座
自由研究講座とは、小学生を対象とした、親子で協力しながら橋のペーパークラフトを製作し、メンテナンスについて学ぶ「座学+体験」を組み合わせた講座です。
座学では、土木インフラとは何か、道路や橋の必要性、橋の構造、橋上の雨水の排出方法、橋の点検やメンテナンスの重要性を学ぶ講座を開催しています。 体験では、実物の橋を見学してもらい、座学で学んだことを実際に目で見て確認することにより、橋への理解を深める機会を設けています。
その後、橋のペーパークラフトを親子で協力し組立てながら、橋の構造や部材の役割を深堀し、理解できるような取組みを行なっています。ストローで再現した排水管を取り付け、雨水が排出される仕組みなども理解してもらい、最後に完成した橋に好きな色を塗り、名前を付けてもらいます。「帰宅後、完成したペーパークラフトを見せながら部材の説明を家族にしていた」などの報告を親御さんから受けました。今回体験したことによりインフラに少しでも興味を持ちメンテナンスの大切さを感じてもらえたらと感じています。
③ハシ・メンテナンス
ハシ・メンテナンスは、大学生を対象として橋梁簡易点検と清掃メンテナンスを組み合わせた取組みを行なっています。「日本の橋梁とメンテナンス」と題した講義を行い、高度経済成長期に建設された供用後50年を超える橋梁の多さや、地域住民でも出来る橋梁簡易点検やその方法についてレクチャーしています。
また、現地で実物の道路橋や歩道橋の点検も行います。舗装タイルの剥がれ、地覆の欠損や高欄の損傷、鋼部材の塗装劣化、歩道橋階段部の滑り止めゴムの劣化損傷などを発見した際は、スマートフォンで状況撮影を行い、記録します。学生達は、その点検結果簿を作成し、管理者に提出します。
最後にメンテナンス清掃を行い、地覆の際に生えた雑草の撤去により雨水の流れを確保したり、排水桝に溜まった砂泥の撤去を行い、機能の回復を図ります。後日、点検で見つかった損傷箇所がインフラ管理者により修復されていると、活動の効果を実感します。
4.おわりに
本活動は、今後も継続的に行いながら、多くの方々を巻き込んでいくことが重要と考えます。クリーンプロジェクトはこれまでに5回開催し延べ203名、自由研究講座は2回開催し27組、ハシ・メンテナンスは2回開催し計17名の方に参加していただきました。地域住民が誰でも気軽に参加できるインフラメンテナンス協働活動は、まだ始まったばかりであり、今後も地域住民の方に橋やインフラメンテナンスに興味を持ってもらえるよう、活動を継続していきます。
また、様々な地域で同様の活動が展開されていくこと、地域住民の方々による自主的な活動へ発展することも期待しています。