土木に関わる優れた市民活動の調査(中間報告)

土木に関わる優れた市民活動の調査(中間報告)土木に関わる優れた市民活動の調査(中間報告)

土木に関わる優れた市民活動の調査(中間報告)

土木と市民社会をつなぐフォーラム 委員長
土木学会/インフラパートナーグループ 委員長
((株)エイト日本技術開発/東京支社/防災保全部)
三村 昇

「土木と市民社会をつなぐフォーラム」では、少しでも皆様の活動の参考となる情報を発信していくことを目指して、全国の表彰制度と、表彰された活動について調査を行い、成功事例としてその活動内容のとりまとめを行っています。ここでは、現段階での調査結果(中間報告)を紹介させていただきます。

1.調査の目的

「土木と市民社会をつなぐ活動」や「土木に関わる社会課題に取り組む活動」を行う全国のNPO等団体が参考となるような優れた活動やそのノウハウなどをとりまとめて公表することで、そのような活動を少しでも広め、また、そのような活動をしている人たちを繋いでいくことを目的として、本調査を行いました。これら取り組みにより、活動している人たち相互の情報交換や連携が生まれることを望むとともに、多数の活動から先人の知恵を他に活かすことを目指すものです。

本調査では、参考にできると考えられる優れた活動や良い成功事例として、全国に各種存在する表彰制度により表彰された活動を、広い意味で優れた活動の一次スクリーニング結果として捉えることとし、表彰制度の調査及び表彰された活動の具体的な活動内容等から、共通する取組や特徴的な取組などを抽出・整理し、とりまとめました。

※「優れた」という表現について

本報告では「優れた」という表現を使用しているが、これは上述のとおり、「表彰されるほどの活動には何らかの優れている点があるはずであり、全国数多の「土木と市民社会をつなぐ」活動に携わっている方々にとって参考になる点も多いだろう」という想定に基づくものである。本調査の方法や結果を説明する上で便宜的に用いている表現であり、本調査で対象としなかった全国数多の活動を含めて、活動そのものの優劣について評価したものではない。本調査結果が多くの方々にとって参考となることを期待するが、本調査報告を引用する際等には、上記の点に強く注意されたい。

2.調査方法

2.1 表彰制度の調査

全国で「土木と市民社会をつなぐ」活動を行っている主体にとって参考になる活動を効率よく効果的に抽出する観点として、本調査では土木関係の表彰制度に着目しました。土木及び関連分野について全国には多くの表彰制度が存在しますが、それぞれ何らかの目的や評価基準を有しており、多数の物件のなかから、上記の基準等に沿って「優れている」と評価された物件が受賞することから、全国の活動主体等にとっても参考になる要素が多く含まれていると想定されます。

上記のような考えに基づき、国や都道府県、市町村、学協会、民間などによる土木関係の表彰の取組について、その名称、表彰主体、目的、概要・特徴、表彰の要求事項、賞の種類、表彰の頻度、連絡担当者、URL等の調査・整理を行いました。

2.2 「土木と市民社会をつなぐ」優れた活動の調査

1) 幅広調査

前項「2.1 表彰制度の調査」で抽出された表彰制度について、公表資料から得られる情報の量や各委員の専門分野なども考慮しつつ、受賞活動調査の対象とする表彰制度を絞り込みました。

調査した受賞活動は、表彰された活動の中から、他の活動に参考となり、特によいと考えられる活動を抽出し、表彰制度名、受賞名、団体・組織名、活動名、活動概要、特徴・工夫、URL、連絡先等について整理を行いました。

2) 深掘り調査

整理した受賞活動について、他の活動の参考となる観点から、更に具体の調査を行い、個別調査表を作成しました。ここでは、公表されている情報を基に、表彰の指標や評価ポイント、活動の連携・協働の対象、連携・協働の主導者、活動の頻度等詳細、それらに基づくよいと考えられる理由・工夫などの情報について整理を行いました。

3.調査結果

3.1 表彰制度の調査

表彰制度の調査により全国で約75の表彰制度が抽出されました。インフラメンテナンス大賞、防災まちづくり大賞、日本水大賞など、各制度の特徴を整理したものを別途整理表にとりまとめています。

3.2 「土木と市民社会をつなぐ」優れた活動の調査

1) 幅広調査

幅広調査では、計41件の「土木と市民社会をつなぐ」活動が抽出されました。幅広調査により整理された「土木と市民社会をつなぐ」活動を別途一覧表としてとりまとめています。

これらの活動の共通的な特徴としては、継続的な取り組みへの工夫や、地域住民を巻き込んだ取り組み、地域の関係機関・行政等との連携・協働の関係構築、各種イベントの効果的な活用・発信などが挙げられます。

2) 深掘り調査

深掘り調査では、計23件の「土木と市民社会をつなぐ」活動が抽出されました。これらの活動について、連携・協働の主体や対象に着目した整理を行い、各事例については個票形式で取りまとめました。

4.考察等

4.1 「土木と市民社会をつなぐ」優れた活動の共通事項の分析

深掘り調査の結果、「土木と市民社会をつなぐ」優れた活動として抽出された計23件の活動事例において、連携・協働の対象を集計すると図2のとおりとなります。

(※「NPO等」:社団法人含む、「大学」:学識者等、「学校」:小中学校等)

図2 抽出された受賞活動事例(全23件)における連携・協働の対象

「自治体」及び「住民」との連携が同数(18件)で最も多くなっています。特に「国」も含めた行政との連携としてみた場合、19件(/全23件)となり、行政を巻き込んだ活動による事例が多いことがわかります。また、行政と連携していない場合でも、「大学」と連携している活動が多く、行政あるいは大学との連携は、21件(/全23件)となっていることから、やはり行政や大学(有識者等)との連携・協働は、活動に有利に働いている可能性が考えられます。

また、「連携・協働の対象」という観点以外にも、各取組で共通する事項を整理した結果を表1に示します。「地域の課題・問題意識の共有」は、活動の主体となる団体等のみでは、活動に必要な人的資源が限られるが、地域住民等を巻き込む形で協力関係を積極的に築いていくことの重要性を物語っており、「協議会や検討会等の設置」はそのための体制構築の役割を果たしていると考えられます。また、「取組の仕組み作り」は、誰でも使えるような教材やツールなどを導入することで、新規参入者へのハードルが下がり、活動が継続することを担保・強化することができているものと考えられます。

今回は調査対象とした事例数が限られていることから断定的なことは言えないものの、これらの共通する事項等については、それぞれの活動事例の特徴・工夫を表すものであると同時に、他の活動にとっても参考となるものと考えられます。

表1 「土木と市民社会をつなぐ」活動の共通する事項と活動事例

共通する事項等事例等
行政や大学との連携 (→継続した取組)・まちあるきツアーなどに加え、学識者によるセミナーを定期的に開催し、市民のまちづくりに関する知見向上に寄与(No1)。 ・御堂筋まちづくりへの自発的な活動から自治体との連携に展開し、自主ルールの設定や将来ビジョンへの実践など、20年以上の継続的な取組(No12)。 ・地元と大学が連携した活動から、行政も巻き込んだ市駅まちづくりの継続的な発展の取組(No17)。 ・防災まちづくりにおいて、商店街が場所・機会を提供し、消防署(行政)が防火・防災教育、民間企業がコンテンツや広報活動と、得意分野を分担して連携(No19)。
地域の課題・問題意識の共有 (→積極的な協力関係・取組)・協議会を設置し、「まちづくり・川づくり基本構想」を策定して、地域の課題や理念を明確化・共有することで、市民や企業、行政等の関係者の理解と協力を得ながら活動(No5)。 ・災害を契機として、住民自ら委員会を組織し、大学とも連携して、地域の里山が抱える諸問題に対する知識を深める幅広い活動により、治山・強靱化に寄与(No15)。
協議会や検討会等の設置 (→定期的・継続的な取組体制構築)・地元と大学が連携して「まちづくり実行会議」を結成し、継続的にイベントを開催(No1)。 ・沿道住民と行政で協議会を結成し、流雪溝利用の実態調査や流雪溝投雪マニュアルの策定など、地域課題の解決に向けた地道な活動を継続(No6)。 ・住民主体で継続的な取り組みができる組織を構築し、地域の様々な組織や学校も巻き込んだ地域全体での水害避難への取組(No10)。 ・温泉街の交通環境改善に向けて、地域住民や旅館業者などが協議会を結成し、連携して自主ルール制定など、継続的に活動(No16)。
取組の仕組み作り (→継続性)・学校に毎年更新する教材(防災玉手箱)を設置し、専門知識のある人がメンテナンスに訪問(御用聞き)する際に防災教育の支援を行う仕組みを構築(No3)。 ・一般市民が橋梁点検できるツールとしてチェックシートを考案し、住民主導で行えるインフラ整備モデルを構築(No4)。 ・地域社会に貢献する湧水河川を、農業者・市民・NPO・行政等の協働により、再生保全管理システムを構築し、30年近い継続活動による環境保全及び観光へも貢献(No11)。 ・地域(商店街)や企業、行政(消防署)が互いに得意分野を活かして連携した「防災てらこや」の開催により、幅広く学べる機会の提供と、商店街の日常の活性化など、まちづくりへの波及・相乗効果を生み出す取組(No19)。
その他・クラウドファンディングによる資金調達(No17)。 ・活動への参加を容易にするために、誰でも取り組めるような活動の工夫(No2,20など)。

表2 深掘り調査で抽出した活動一覧(参考)

No団体・組織活動名
1山梨県南アルプス市アルプス市内各所を市民とめぐるツアーなど
2しれとこ・ウトロフォーラム21知床のガードレール雪かきプラス!~真冬の避難・命を守るまちづくり~
3NPO法人ふるさと未来創造堂新潟県長岡市における持続可能な防災教育体制の構築
4日本大学工学部土木工学科コンクリート研究室住民主導型橋梁セルフメンテナンスモデルの構築と実装
5NPO法人まち・川づくりサポートセンター市民と歩むまちづくり・川づくり
6苫前町まちづくり企画流雪溝を生かした地域内共助の醸成
7土木学会関東支部広報部会大学と高校の土木系学生によるコンクリートカヌー大会
8森ビル株式会社ヒルズ街育プロジェクト
9特定非営利活動法人 アクア・チッタ従来うち捨てられていた空き倉庫を「可能性のある資源」と捉え、立地を活かし魅力あるイベントの開催等で、活気のある賑やかな町に
10久我・久我の杜・羽束師地域まちづくり協議会 防災部会水害からの確実な避難を目指して~3つの地域が手をとりあって誰もが主役の流域治水の取り組み~
11特定非営利活動法人 多摩源流こすげ多摩川源流での水源の森再生プロジェクト
12一般社団法人御堂筋まちづくりネットワーク上質なにぎわいと風格あるビジネスエリアを育む御堂筋まちづくりネットワーク 20 年間の取組
13特定非営利活動法人グラウンドワーク三島地域総参加による「源兵衛川」の再生・管理システムの構築
14環境ボランティアサークル亀の子隊西の浜はゴミ箱じゃない!~良好な海浜・海岸を守るための活動
15諏訪形区を災害から守る委員会地域活動による治山施設の維持管理と森の強靱化
16城崎温泉交通環境改善協議会地元主体による城崎温泉における5年間に及ぶ交通環境の改善と地域一体となった「そぞろ歩きルール」の制定と実施
17市駅まちづくり実行会議和歌山市駅周辺の公共空間活用社会実験「市駅 グリーングリーン プロジェクト」
18立町マイスクール児童館児童館による地域の子どもを中心とした無理なく継続できる防災意識向上の取組
19横浜橋通商店街、株式会社野毛印刷社、横浜市消防局南消防署子どもを育てる「防災てらこや」~商店街を基軸とした防災まちづくり~
20一般社団法人シモキタ園藝部小田急線上部利用施設等のグリーンインフラの取組み
21鶴岡市、山形大学、㈱日水コン、鶴岡市農業協同組合、水ingエンジニアリング㈱、㈱東北サイエンス「じゅんかん育ち」を学校へ
22釧路・リバー・プロテクション・21の会釧路川等の愛護・美化思想の普及・啓発
23港文館倶楽部釧路港文館の運営

4.2 今後の課題等

本調査では、公表されている情報に基づく情報収集・整理を行ったが、公表情報は、いわば「外向けのきれいな上澄み」の部分が多いことが推測される。しかし、活動が立ち上げたり存続したりする上では、「上澄み」以外の表に出てこない情報も重要であり、本報告の主要な読者として想定する、実際に活動を行っている団体等にとって、そのような実態に関する情報がより役立つ情報となる可能性があります。

そのため、今後、公表されていない情報として、実際の活動で苦労した点や困難、それらの解決策など、実態に関するインタビューを行い、それらの情報も含めることで、より他の活動の参考となりそうな情報としてのとりまとめを予定しています。