荒川放水路通水100周年「イノシシが泳いできた荒川」出版

荒川放水路通水100周年「イノシシが泳いできた荒川」出版荒川放水路通水100周年「イノシシが泳いできた荒川」出版

NPO法人あらかわ学会 副理事長
三井 元子

■荒川放水路通水100周年

明治43年(1910)の東京埼玉大水害をきっかけにして、いよいよ隅田川から分岐する荒川放水路を建設することが決まりました。北区岩淵から海までの全長22㎞、川幅(堤防から堤防のまでの幅)約500mにも及ぶ大工事が始まったのです。そして大正13年(1924)10月12日、岩淵水門で通水式が盛大に行われました。あれから100年、荒川下流は一度も決壊することなく東京都心部を守ってきたのです。

赤水門下流が隅田川、左上が荒川放水路

荒川放水路は、明治40(1907)の洪水で推定された流量に基づいて、荒川上流から隅田川へと流れていく4,170m³/sの流量の内830m³/sを隅田川に流し、残り3,340m³/sを新しく開削した荒川放水路に流そうという計画でした。しかし明治43年の水害の推定流量が5,570m³/sもあったため、堤防高を計画よりも高くすることで断面積を増やしました。そして閘門などの工事を追加して、5年後にすべての工事が完了しました。工事を担当指揮した青山士(あきら)氏は、大正10年、機械学会での講演会で以下の様なことを述べています。

「低水路を掘った土や浚渫船でさらった土は、合計で三百三十万立方坪(二千万㎥)で、エジプトにある一番大きなピラミッドを八つ作れるほどの土の量です。全体の費用は、全部で二千九百四十五万円が必要になるでしょう。大金のように思うけれど、軍艦一艘こさえれば、三千二百万円はかかります。軍艦たった一艘で荒川下流の水害を防ぐことができるのです。……あと少しで放水路によって東京市が水害から完全に保護されるのです」

軍国主義台頭の時期に、人々の命を救うのは軍艦ではなく治水だとはっきりと言い放ったのです。

■『イノシシが泳いできた荒川』出版

東京を流れる大河川、荒川が放水路だということを知らない方が、年々増えていることから、荒川のことをもっと知ってもらいたいと考え、2024年5月、『イノシシが泳いできた荒川』という本を出版いたしました。大人にもこどもにも読みやすい一冊となりました。

第1章は、2019年の令和元年東日本台風(台風19号)で避難した経験を持つ少年が、その数日後に出没したイノシシをきっかけに荒川に関心を持ち、父親と一緒に上流から中流、下流へと取材の旅をしていく物語です。長瀞の「埼玉県立自然の博物館」に行き、秩父まで海だった時代があることを知ったり、徳川家康による荒川の付け替え事業を学んだり、明治43年の大水害時の芥川龍之介の日記に出会ったりして当時の様子を知ります。また、あらかわ学会の理事たちにインタビューして、日米桜交流の歴史や出来たばかりの頃は水練場が12か所以上できて、たくさんの人が泳いでいたことを知ります。でも、地球温暖化が進み、年々水の被害が大きくなっていることを実感していることから、本当に安心して暮らしていけるんだろうかという不安も抱きます。

(四六判 208頁
1,800円税込)

第2章では、少年がインタビューをした方たちをはじめ、多くの専門家が上・中・下流の施策や荒川への想い、これからのことを執筆してくださいました。

2019年の東日本台風(台風19号)は、日本の治水史上でも特筆すべき大災害でした。これによって「流域治水」という考え方が生まれ、政策が切り替わる転換点になったのです。荒川放水路はこの100年間、決壊することなく都会に住む私たちを守ってくれましたが、これからの100年は私たちが主体となって私たちの命とまちを守っていかなければなりません。マモル君の様に良好な好奇心を持って、主体的に活動する子どもたちをこれからも支援して、共に解決の糸口を探していきましょう。

■泳げる荒川の復活をめざして「荒川遠泳大会2024」

NPO法人あらかわ学会では、9月14日(土)「荒川遠泳大会2024」を計画しています。水質汚濁防止法や自然再生事業などの多くの努力が実って、泳げる荒川が復活したことを共に喜び合うため、そして河川敷だけを楽しむのではなく、川中のより良い荒川を実現していくための第一歩と活動と考えています。昨年、プレ遠泳大会を行い840mを泳ぎましたが、においも味もなく大変快適に泳ぐことができました。(CNCP通信/2023年11月/Vol.115) 9月14日(土)は、15時に泳ぎ出し、1.5km上流の千住虹の広場に15:30~40分ごろ着岸予定です。ぜひ、応援にきて、泳げる荒川を見に来てください! なぜ上流に向かっておよぐのか? それは汽水域だから、そしてイノシシの泳いだコースだからです。

昭和7年 千住新橋下流
講武館水練場 (写真:三井元子蔵)

うれしいことに、通水100周年を迎える(旧)岩淵水門、通称「赤水門」が、今年重要文化財指定されることになりました。10月12日には通水100周年記念イベントが北区赤羽の荒川知水資料館と河川敷で盛大に行われます。そこで、あらかわ学会では、「岩淵水門」をテーマに知水資料館のアモアホールにおいて記念講演会を企画しています。ぜひ一度、荒川放水路にいらしてください。

※NPO法人あらかわ学会HP:https://www.arakawa-gakkai.jp

CNCP通信/2023年11月/Vol.115「泳げる荒川の復活をめざして」−あらかわ遠泳プレ大会−参照