「建設業のこれから」を考える-CSV研究会の議論から-

「建設業のこれから」を考える-CSV研究会の議論から-「建設業のこれから」を考える-CSV研究会の議論から-

シビルNPO連携プラットフォーム 代表理事
山本 卓朗

当研究会は、賛助会員で協力いただいているゼネコン・コンサルの皆さんと、これからの建設業のあり方を色々な角度から議論するために集まっており、既に第4ステージに歩を進めているところです。2月に開催した研究会においては、昨今の厳しい社会情勢を背景に、改めて「建設業のこれから」を取り上げ、参加メンバーの現時点での思いを共有することにしました。言うまでもなく我が国では、緊迫する国際的な政治経済情勢に加えて自然災害の影響も大きく、建設業のみならず、企業環境の先行きに不透明さを増していると思います。「建設業のこれから」については、長年に亘って、業界団体や各企業で取り組んできたわけですが、一朝一夕にカタのつく議論ではないし、各社のコーポレートレポートを拝見しても、いまも必死で努力されていることが伺われます。しかしこういう時代だからこそ、折に触れて、そのあり方を議論し続ける必要があるし、若い社員にも一緒に考えて欲しいと思いました。

研究会参加メンバーの経験した時代としては、バブルの崩壊から企業再生、談合決別、そして大きく進展した新・担い手3法、そして今日の働き方改革に至るおよそ30年間です。私は本当に激動の時代、多くの苦い経験をしてきた時代だったと思います。

今回議論したのは、大きく次の2点に絞っています。

その1:過去に経験してきたさまざまな出来事を振り返ったとき、“依然として課題として残っているものは何か”

その2:今後予想されるさらなる社会の変化を考えるとき“次なる戦略は何か”

その1と2を分けて記述すると、重複する点が多くなるので、項目をまとめて簡単に記載します。

①バブル時代の苦い経験を活かす「これから」を考える

バブル時代に取り組んだ不動産開発などは、大きな負の遺産として今日に至るまで各社を苦しめているが、その苦い経験が今日に活かされていないのではないか?

最も手がつかなかったのが、作った施設を「運営」する事業である。売りきりと資金回収を優先して、永続的なビジネスチャンスを逃してきた。しかしこれからの建設業は、公共インフラを作る機会が減って、今あるものを上手に使っていく時代になると予想できる。既に公共施設の運営PFIなどが始まっているが、土木インフラも地域づくりと連動して、地方自治体の技術力や財力をカバーする発想が随所で生まれてくるのではないか。ゼネコンの持つ高度な施工管理の技術ならびに運営力の応用が期待される。

②海外インフラ事業の苦い経験を活かす「これから」を考える

海外でのインフラ工事受注も苦労を重ねた大きな課題であった。契約方式や言葉の壁の中で、各社がバラバラに施工を受注するスタイルのため、計画から管理まで圧倒的な組織力を持つ欧米の建設企業に歯が立たない状況が続いている。海外インフラ事業もその経験を今日に活かし切っていないのではないか。

もちろん昨今は、政府がリードするインフラシステム輸出戦略で、人材教育も含め、様々な努力がなされているが、企業の合従連衡による思い切ったスケールを構築するに至っていない。筆者の育った鉄道界でも同様で、アジア市場を欧州鉄道規格で根こそぎ取り込もうとする巨大な圧力に、日本の技術力の質の高さだけで対抗するには、その非力さを痛切に感じるところである。低成長下にあっても小さなスケールでそれなりの国内受注で生きていける日本のムラ社会、それはそれとして評価するとしても、日本経済を支える国際戦略の構築は必須であり、思い切った(国際部門の)合従連衡を模索すべきではないか。

③建設人材のあり方の「これから」を考える

旅の途中で、タクシーを呼んでも来てくれない事態にしばしばぶつかるようになった。もはや人手不足が日本全国に及んでいることを実感している。その中で建設業界も現場における業務の効率化、生産性の向上を目的とした測量や設計・検討業務の外注化が進み、物事の本質を理解出来ない技術者が増加し、様々なトラブルの原因になっている。また経歴や資格を重視する入札・契約制度による社員の全国規模の移動が多くなり、特に若手社員の退職の大きな要因ともなっている。さらに土木工学を履修しても、土木工学そのものを主務としない業界への就職も増加し、人材確保が非常に厳しくなっている。このような昨今の状況を見ても、建設業界が抱える課題として、「建設業の魅力をいかにして伝え、いかにして理解してもらうか」、広報戦略の重要性がさらに高まっている。

しかし、建設業の魅力が理解されたとしても、個々人が幸せになるかどうかはわからない。トンネル一途で生涯を暮らせるなら全国行脚も厭わない人、どんな仕事でもこなすから、故郷をベースで頑張りたい人(人材の地産地消?)。若者の働き方が多様化してきたから、建設人材の確保と運用も多角的な取り組みが必要になってきた。これからの建設業のあり方と人材のあり方は、“連動して”議論されるべきことと思う。

④建設業への理解を促進する広報戦略の「これから」を考える

私が旧「土工協」で広報担当をしていたのは、20年くらい前になるが、そのときの第一のテーマが“建設業への理解の促進をはかる”であった。それ以前から土木や建設業への理解を深めてもらう広報活動は、国交省を初め、多くの行政機関や協会、各社など広範に行われてきたが、効果は今ひとつである。東日本大震災においても、多くの企業が復旧・復興事業に献身的な努力を重ねた事実も縁の下の力持ちで終わった感がある。このような状況から、土木学会にも広報センターが設置され、ホームページ・Facebookその他で多角的な活動を展開している。また、土木への理解促進のために、「土木ということば」の歴史的な経緯と国語辞典での扱いを研究している方もおられるが、その一環として、現土木学会広報センター長の小松淳氏が2年間にわたり、CNCP通信にシリーズ「土木ということば」を連載された(CNCP通信66号:令和元年10月に第18回“国語辞典の「土木」の現在”掲載)。

このような努力にもかかわらず、市民レベルでの理解が進まないのは、“我々自身の姿勢に問題があるのではないか”という厳しい反省の言もあった。エンドユーザーである市民への目線の欠如が、公共工事は悪という評価が消えない一因にもなっているのではと。田辺朔郎や八田與一の仕事が偉業と呼ばれるのはなぜか。などなど広報の難しさを実感するご意見が多く出された。頑張ってきた事実を“見てください”と広報するのではなく、市民生活とインフラの結びつきを色々な手段で解説する知恵をもっと出したいと考える。

⑤(まとめ)建設業の「これから」を考える―視点―

以上何点かを事例的に取り上げたが、各社が3~5カ年計画などで真摯に取り組んでいる当面する施策を確実に実行していくことを前提に、さらなる“先”を考える時の“視点”をまとめておきたい。

1)エンドユーザーである「市民」への貢献を究極の目標とする理念を構築し、具体的な施策に結びつけること。

2)海外企業との比較をしっかり行い、日本の競争力を構築する戦略を業界全体として立てること。合従連衡、企業連携、他業種連携などを積極的に構築すること。

3)大胆に合従連衡を進めてきた他産業の近代化の歴史を学び、建設業のこれからに結びつけること。

――最後に――

参加メンバーのご意見は、多岐に亘っており、まとめきれないところがあります。その雰囲気を感じつつ、筆者の思いも入れて以下の2点を追加します。

●「公共インフラのビッグピクチャー」を描く活動を

日本が世界に互して生きていくには、まずは、停滞している国内でのインフラ整備ポテンシャルの向上が不可欠です。そのために将来ビジョン“公共インフラのビッグピクチャー”について若者や学生を入れて議論する輪を広げたいと思います。

●「過去の辛かった歴史に学ぶ」ことを避けないで

私たちが経験した30年間のなかで、私が最も重要かつ建設業の大転換となったと高く評価しているのが、平成18年に実行しそれを今日まで持続させている「談合決別宣言」です。当時の土木工業協会が全社の協力の下に発信した「透明性ある入札・契約制度にむけて―改革姿勢と提言―」です。以降20年近くが経ちましたが、各社ごとに「コンプライアンスルール」に談合防止・贈賄等の禁止を盛り込んだり、「内部通報制度」を設けたり、具体的な対策を講じてきました。その成果として現在、多くの不祥事が未然に防がれており、この提言がしっかり実行されていることを示しています。しかし、災害も事故も事件も、永久になくなることはありません。それだけに辛かった過去の“事故・事件”に蓋をしないで、しっかりと継承していくことを経営者の皆さんに期待しています。

**この原稿を書いているさなかに、土木学会誌3月号特集に「働き方改革―あなたの常識、どう考える?」が掲載されました。本原稿はシニア中心の経験談がベースですが、学会誌の特集は、若手の皆さんによる調査や議論が中心になっているので、合わせてご覧いただければ幸いです。