土木と市民社会をつなぐ事業研究会
(通称:CSV研究会)
■はじめに
私たちは、CNCPのプラットーフォーム上で活動するプロジェクトです。CNCPの賛助会員の中堅ゼネコン数社と理事で、未開の「土木と市民社会をつなぐ巨大な空白領域」に、「新たな市場」の創出を目指し、「社会的課題に建設業がどのようにかかわるか」について議論を重ねて来ました。
「通称:CSV研究会」の「CSV」は、Creating Shared Valueの略で、「共通価値の創造」。つまり、企業が、社会的課題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造されることを目指しています。日本人の消費行動は、昭和時代は圧倒的に「モノ消費」でしたが、今や「モノ消費:コト消費=1:2」という行動様式になっているため、建設界で「CaaS=建設業のサービス化」をどれくらいの経済規模で描けるか?・・を考えています。「造って何ぼ」という請負業一辺倒からの脱皮、経営資源の投入先をシフトさせ、革新的な事業改革、異業種とのコラボ、投資ファンド、新たな外部化等への「新展開に挑む」ことを考えています。
本号冒頭の山本代表の年頭あいさつのように、いま、「適疎な地域づくり」に取り組んでいます。今回から、数回、「適疎な地域づくり」への政策提言をまとめるために、「この国をとりまく社会や経済活動の現状」を勉強してきた内容を、紹介します。
■「適疎」って、いくつある?
最初に、「適疎」であると考える要素・判断する指標を考えてみます。おそらく日本人の9割は、いま住んでいる所が「適疎」と思うのではないでしょうか。「住めば都」いう諺・・・自分が、その地で快適に暮らせるように、どなたも自分の人生を居住地に合わせて暮らしていますから。 それでは、「適疎」って幾つあるのか。下表のように整理してみました。
適疎の要素 | 適疎と考える理由 |
①まずもってその人の「出自」 | ・血統の問題、これは争えないものがある ・若いうちは意識しないと思いますが、退職して自由な身分になると、「先祖は●●藩士で、本籍地もお墓も●●市にある訳で」・・そのまちの繁栄を願うのは当然。 |
②いま何処に住んでいるか | ・おそらく日本人の9割は、いま住んでいる所が「適疎」と思うでしょう。 ・前掲の「住めば都」という諺が示すように、最初からそこに住みたという強い望みが無くても、・・自分が、その地で快適に暮らせるように、どなたも自分の人生を居住地に合わせて暮らしています。 ・いま現在、東京住まいの方は、地方圏から非難されても、「東京が一番」は当たり前でしょう。 |
③どんな職業感で生きているか | ・職業を通じて、自分の置かれている「所在地」が大事、そこでの業績を揚げることでしょう。 ・つまり、その赴任地で良いポジションを作ることでしょう。 |
④過去、あるいは現在の役職 | ・サラリーマンの場合は、通常、支店より本社。場末の支店や営業所ではイマイチでしょう。 ・つまり、「自分が成長できる役職」と関連した場所。役員になればなおさらだと思います。 ・やはり東京本社勤務への魅力は高い。 |
⑤親、子や孫、親族などの所在 | ・これは①の出自とも関係があります。 ・それぞれの家庭の事情があるでしょう。高齢になると、子や孫が近くにいることも大事です。 |
⑥暮らしや遊び、文化の価値観 | ・仕事だけが人生ではありません。 ・もっと、自分を豊かにする暮らしや遊び、文化への価値を重視する人もいます。 |
⑦自然観や環境意識 | ・自然観や環境意識の高い人も少なくありません。子どもの環境を考えて移住する人も少なくないです。 |
⑧究極は人生観 | ・つまるところはその人の「人生観」。 ・都市・地方計画を仕事にした人には、多様な要素をもとにした「地域への大局観」で地域を見ています。 |
前掲の表のどれを重視するかは、その人の年代によると思います。若いうちは余り頓着が無いでしょうが、年を重ねると「適疎」のイメージも次第に固定化するでしょう。
■過密と過疎しかないのか?
「過密」と言うと一極集中した東京、「過疎」と言うと人口減少が進む地方を思い浮かべますが、日本には過密と過疎しかない訳ではありません。両者の中間には、沢山の「適疎」があります。もっと穿った見方をすれば、東京圏の中にも都心三区などの「適疎」がありますし、過疎地域にも「適疎」があります。ただ、我が国の法制度の定義で言えば、2022年度の「過疎法」(第5次)では、自治体1718のうち885(51.5%)を指定、国勢調査ごとに増加中で、面積もどんどん拡大中です。
つまり、「この国のかたち」の全体像を俯瞰的に捉えると、日本の国土は過密と過疎の2層ではなく、大きく分けても5~10層の複数のレイヤーで構成されています。だから「適疎」にはそんな重層的な見方が必要だと思います。
■東京の魔力
●東京駅のホテルメトロポリタンからの風景
右の写真は「ホテルメトロポリタン丸の内」の地上33Fの客室から、眼下の東京駅の風景です。東海道新幹線が九州から、東北新幹線が北海道から・・この両新幹線が入ってくる駅は日本中でここしかない・・と感激します。
●東京一極集中が日本を救う
右の写真の本は、2014年制定の「地方創生法」(第一条に、東京圏への過度の一極集中を是正し・・)の文言に、異を唱えるべく出版された本。法制化の翌年2015年に市川宏雄氏(明大教授、森財団の幹部などを務める)が「東京一極集中が日本を救う」を出版しました。帯には、「本書を読まずに地方創生は語れない」と書かれています。
地方都市で創生に取り組んでいる方々は、「東京一極集中が諸悪の根源」と考えていらっしゃるでしょうから、その立場からすれば、この本は「トンデモナイ本」です。でも著者の講演会は盛況で、東京在住のおよそ9割の人々に支持される話なのでしょう。
■政令市や中核市はいかがなのか?
上記の「過疎と過密しかないのか?」で、その間には沢山の「適疎」があると述べました。国土を形成する「地域のレイヤー」は5~10層はあるので、以下でザックリと概観してみましょう。
●バケツの底が抜けているという話
右上の写真の雑紙「Wedge」2020年2月号の「幻想の地方創生~東京一極集中が止まらない~」では、人口の大流出の状況について、もはや過疎地から出ていく人は消え、主戦場は「札・仙・広・福」以外の政令市や中核市、中小都市だと言います。それらの都市のほとんどが人口流出にあえいでいて、その様子を「バケツの底が破れた!」と表現しています。
●地方圏のかたちを見るときの5層のレイヤー
細かく分類すれば更に細分化できますが、概観として下表のように大きく分類できるでしょう。
対象エリヤ | 人口規模 | 地域の現状 |
A.旧町村 (合併で市町に含まれるケースあり) | 1000人 程度 | ・中山間地域や島嶼部などの、大半が過疎地域であり、将来の消滅地域とされる。 ・高齢化率50%以上は珍しくない。 ・「日本の未来が既に到来している」と言ってよいだろう。 ・人口は往時の半減以下で、既に人口流出が底を打ち、近年は都市から若者移住が見られ、人口増加の局面もある。 |
B.小都市 (合併で他市に合流のケースもあり) | 5万人 未満 | ・例え、市政を敷いていても、人口が30~50%減少し、商店が消え、もはや「都市」ではない。 ・建設予算10億円未満で理解されよう。 ・既に人口流出が底を打ち、自然増加はありえないが、政策の小回りが利くという長所を持つ。 |
C.中小都市 | 5~19 万人 | ・このクラスの都市経営が一番苦しい。 ・かつての商店街はシャッター通り化し、往時の賑わいは消えてさびしい。 ・単独再生には、ヒト・モノ・カネが足りず、大胆な政策を打てない。中核市などと広域都市圏での役割分担に期待したい。 |
D.中核市 | 20~50 万人 | ・全国で60市もあり、多くの県庁所在地がこのクラスに属する。 ・比較的暮らしやすい都市規模で、総じて出生率も高いのだが、大都市圏への「バケツの底が抜けた」とも言われる人口流出が最大の問題。 ・人口流出を食い止める都市政策が不可欠。今まさに、正念場を迎えている。 |
E.政令市 (=地方中枢都市が含まれる) | 70~ 200万人 | ・政令市は20市あるが、3大都市圏に含まれる都市を除くと、主役は「札・仙・広・福」の4大都市になる。 ・この4大都市は、国土の7割の面積の地方圏の政治・経済・文化・教育・・等で牽引する最も重要な役割を担う。 ・地方圏の人口流出を食い止める「ダム効果」の機能が強く求められる。 ・「札・仙・広・福」は、数少ない人口増加都市で、強力な施策展開が求められる。 |
●県都の人口増減
どこの県でも県都には威信をかけて、人口流出を止めようと頑張っていますが、残念ながら「全国一律」ではなく、「勝ち組」と「負け組」があります。右の表は、県庁所在地47都市の人口増加ランキングの上位10都市です。東京23区を上回りトップの「福岡市」の増加率は凄いです。地方圏の中枢都市「札・仙・広・福」が上位で頑張っている様子が解ります。人口の多少と別に、「人口増加率=成長性=都市力」が伺えます。ちなみに、減少率トップは、青森市で-3.96%です。
元政策投資銀行の藻谷浩介氏曰く、「人口」とは、人の口と書くように、飯も食えるところに人は動くのです。その数値が何を語っているかを読み解くことが重要なのです。