わかり易い土木 第33回 河川の話 日本の河川災害対策(2)

わかり易い土木 第33回 河川の話 日本の河川災害対策(2)わかり易い土木 第33回 河川の話 日本の河川災害対策(2)

わかり易い土木 第33回 河川の話
日本の河川災害対策(2)

アジア航測株式会社 事業推進本部
社会インフラマネジメント事業部
大友 正晴

今回は、最近よく聞かれる「流域治水」の考えの始まりについて勉強してみましょう。


■ 最近の災害からの教訓

前回もお話しましたが、最近の水害に関してもう少し話させて頂きます。水害というと河川の近くとか低い土地で起こるものと誰しもが思っていると思います。しかし、山の手と呼ばれる高台でも水害が発生しています。平成20年に東京の豊島区で下水道工事中にゲリラ豪雨により5人の作業員が亡くなった事故を覚えている方も多いと思います。東京都内では道路がすべて舗装され、宅地開発により建物が立て込んでおり降った雨のほとんどが下水管に流れるようになっているため下水管内の急激な増水によるものでした。

◆ゲリラ豪雨って実は。。。ゲリラ豪雨とは、集中豪雨の一種ですが、実は気象用語ではありません。マスメディアが使うようになって広まったと言われ、2008年の流行語大賞の候補の一つとして選ばれています。突発的に発生する局地的大雨・豪雨で天気予報での正確な予測困難な集中豪雨のことを言うようで、明確な定義はありません。

この他にも、都市を流れる河川では、ゲリラ豪雨による急な増水で水難事故が発生しています。また、ゲリラ豪雨は、道路の冠水や家屋への浸水なども起こしています。これらは、一度に大量に降った雨が、都市河川や下水道では流しきれずに溢れ出すことが多く、高台でもこのような被害が発生しています。

日本では災害対策基本法により、市区町村長、或いは警察官、海上保安官は「災害の際人々の命を災害から守るために、市区町村長が避難を勧告又は指示することができる」とされています。「避難準備」「避難勧告」「避難指示」の発令がそれです。しかし、昨今の異常気象などから予測を超えた大雨などによる災害発生に対するこれらの発令が間に合わなかったことによる被害が問題となっています。これらの発令には、拘束力がなく、また市区町村長の判断もばらばらに行なわれているのが実態です。発令の判断は非常に難しいと言われており、また拘束力がないために住民の判断ミスも多々起こりうるものとなっています。

以上のように、今日のような気候変動下での河川の水害に対しては、自治体が個々行っているだけでは対応しきれず、被害が防ぎきれない状況が発生しています。そこで、河川流域内の上流、中流、下流全域にわたる対策が必要であると考えられるようになりました。

■ 「流域治水」の施策

地球温暖化などによる気候変動による、ゲリラ豪雨や線状降水帯などによる大雨などにより、これまで国等で行ってきた治水計画のみでは、国土、国民の安全を確保することが難しなってきています。

一方、河川の洪水は一自治体だけで発生するわけではありません。前回例を挙げた水害でも広範囲に発生しています。河川で発生する水害は、その流域全域で発生することが多々あります。

そのため河川の水害対策計画の見直しが必要となりました。国は、「気候変動の影響による水災害の激甚化・頻発化等を踏まえ、堤防の整備、ダムの建設・再生などの対策をより一層加速するとともに、集水域(雨水が河川に流入する地域)から氾濫域(河川等の氾濫により浸水が想定される地域)にわたる流域に関わるあらゆる関係者が協働して水対策を行う」という考え方{流域治水}が進められることになりました。

右図は国土交通省のホームページから得られた流域治水のイメージ図です。

流域治水では、大きく三つの対策が設定されています。①氾濫をできるだけ防ぐ減らす、②被害対象を減少させる、③被害の軽減、早期復旧・復興のための対策(ハード・ソフト一体で多層的に)がそれです。

流域治水イメージ図
(国土交通省HPより)

■ 総合治水と流域治水

これまで国では総合治水対策を行っていました。従来の総合治水は、都市化した地域では降った雨が地中にしみこみにくく、雨がすぐに流れ出し洪水が起こしやすく(下の図参照)、この対策として流域と河川の一体的対策のことを言います。具体的には、河川改修のほかに調整池の整備、校庭での貯留、各戸貯留などの整備による雨水の河川流出の調整などです。

国土交通省HPより

これに対して流域治水は、河川及び流域が一体となって、全国各地の河川を対象に、流域内のあらゆる関係者による総合的、多層的な対策を講じるものです。今までの河川改修や洪水調節施設等の整備の他に既存施設等のより有効な活用や湛水可能カ所の有効利用及び住み方の工夫等々を実施することを「流域治水」の内容としています。

■ 流域治水の基本的な考え方

改めて流域治水の基本的な考え方を言い表すと「気候変動を踏まえ、あらゆる関係者が協議して流域全体で総合的かつ多層的な水災害対策」となります。

これまでの総合治水における堤防整備等の氾濫をできるだけ防ぐための対策としては、堤防整備、河道掘削や引堤、ダムや遊水地等の整備、雨水幹線や地下貯留施設の整備、多目的ダム等の洪水調節機能の強化などがあります。流域治水では、これらの対策の充実をを図ると共に、次の対策を進めるものとしています。

一つが、被害対象を減少させるための対策として、より災害リスクの低い地域への居住の誘導、水災害リスクの高いエリアにおける建築構造の工夫を行う事。

二つ目が、被害の低減・早期復旧・復興のための対策として、水災害リスク情報空白地帯の解消、中高頻度の外力規模の浸水想定、河川整備完了後などの場合の浸水ハザード情報の提供などを行う事等。

これらの対策を、日本各地の河川及びその流域全般で進めていくことが求められています。

一つ目のリスクの低い地域への居住の誘導などは、東日本大震災後の高台移転に通じるもので、皆さんの理解も得やすいものと思います。しかし、都内に限らず地方においても居住地がリスクの高い地域に広がってしまっており、広島や熱海の土石流被害、山形の土砂災害などの河川水害被害に限らず被災のニュースが後を絶たない状況にあります。流域治水におけるこの取組を早急に広めることは大変有効なことである一方、そこに住まわれる、住民の方々の認識・理解の高揚も必要不可欠になってきます。

国土交通省HPより抜粋