わかり易い土木:第30回 土木と災害対策 第2部

わかり易い土木:第30回 土木と災害対策 第2部わかり易い土木:第30回 土木と災害対策 第2部

わかり易い土木:第30回
土木と災害対策 第2部

NPO法人 州都広島を実現する会 事務局長
シビルNPO連携プラットフォーム 理事
野村 吉春

はじめに

前回は、そもそも「災害対策・・って何か?」という、幅広い概念について触れました。そこで今回は、近年大きな災害に度々遭遇している体験者として、「何かリアルな話題提供を」という要望に応えて、災害現場のたいへん生々しい話題を提供しましょう。

近年は「50年に一度」と言われるような災害が、私の住んでいる広島周辺では数年を待たずに度々襲っているのが現状ですが、このレポートでは、2014年8月20日に発生した、「我が国最大の都市型土砂災害」とも呼ばれている「広島土砂災害」の一件のみに集中して解説します。

読者の皆さまへの、このレポートの着眼点を、先に列記しておきましょう。

  • これは単なる住民ではなく、土木の専門家としての体験談であること。
  • 土木人として、災害に対して無知であったことへの反省。
  • 災害に対するこの地域の脆弱性とは何か?
  • 私が直ちにとった行動とは何か?
  • 救助救援体制やボランティアの素晴らしい活動に感動した。

※右図(パワポの表紙)は私のNPOが地元の研究会のために作成したものです。

■恐怖の降雨を体験

前日の19日は大雨を予測するような兆候はゼロ。雨が本格的降り出したのは深夜の午前2~5時の僅か3時間の出来事でした。

今日では「記録的短時間大雨情報」なるメッセージが携帯にガンガン入って来るが、当時は午前0時頃に消防車が地域を巡回し、注意喚起を行っていた。その後、私を含めて誰も予想できない規模の災害が発生した。

2時から3時、そして4時頃には過去に経験したことのない時間100mmという降雨を体験した。

その降雨強度は「滝のような雨」という表現でも足りない。加えて巨大な稲妻が1分間も途切れることなく閃光を発し、同時に大地を切り割く炸裂音が鳴り渡る。まさに戦時下の爆撃音を想像させる未体験の恐怖に襲われました。 おそらく時間50mmの雨を10分くらいの短時間なら、何方も体験済みだと思いますが、時間100mmクラスという降雨は次元が違います。

しかも、約3時間にわたって、これだけの雨量が降ると、「大変な事が起きるのでは?」という、不気味な不安がよぎりました。

※右上図の当日のアメダスを参照ください。極めて局地的であることが解ります。

■ここで死ぬ訳にはいかない

結局、一睡もできないまま、4時半頃に空が白み始め、雨足も少し緩んで来たごろ、隣の若いお兄ちゃんが、「家の周りが海のようになってる」と大声で叫んでいる。 見ると既に道路も庭も水没し、床下浸水の状況にあり、これ以上浸水すると命が危ない。

私は当時、すでに不治の病に犯され、ベットから立ち上がるのに1時間を要し、更に2階への避難が出来ない病状で、家の中で「溺死!」という危機に迫られ、「ここで死ぬ訳にはいかない!」と、強く念じたものです。私はあの時、一命をとりとめ、治療を経ながら現在に至っています。

※右上の上の写真は、朝7時頃の既に水が引いた時の状況で、痕跡から床下10cmまで迫っていました。

■土木人としての反省

家を建てた当時には、今回のような「床上浸水まで危機一髪というレベル」を全く想定していなかった。

安佐南区は右のグラフに示すように、広島市の中で最も人口の急増している地域。つまり地域の災害リスクを知らない新参者ばかり・・・私でさえ知らなかった…これは、土木人として非常に無知であったと、深く反省している次第です。

その証拠に、昔からこの地に住んでいる住民は1m程度の石垣を積んでその上に住居を構えている事に、気付かなかったのです。

*右上の下の写真を参照。

■私は言葉を失った

さて、話をもとに戻します。実は被災地では、何が起きているのか解らないのです。

前夜の悪夢が終わり、朝になると、今度は救急車や消防車のサイレンが近くや遠くに鳴り響き、上空には数機のヘリが絶えず旋回しています。自宅の床上浸水は免れたけど、何か大変なことが起きている予感がしました。そもそも、この地域は昨晩からずっと停電でTVも見れません。一体どんな地域で、どんな災害が発生しているのか、全く情報が断絶状態なのでした。

午後、何時頃だったか、私の住居にやっと電気が通じた。すぐにTVを見た。広島の全TV局がヘリからの生映像を配信していました。私は、体が震えて言葉を失いました。

ほどなく、隣のお兄ちゃんが、「すぐ近くの歩いて5分ほど場所で家が十数軒ほど流されている」と教えてくれた。私も後日、見に行った。ここでも息をのんだ。「これは一体何てことだ!」と。

今現在は、ここで亡くなられた10名の名前が慰霊碑に刻まれています。

最終的に、「広島土砂災害」による死者は77名(安佐南区75名✛安佐北区2名)という、都市型の土砂災害としては、我が国で最悪の事態となりました。

■災害の現状写真

土木人なら、目をそむけたくなる。ましてや自宅から非常に近い場所であることを考えると、決して他人事では済まされません。

*以下の写真は、自撮り及び私のNPOで撮ったものです。

■記録的短時間&局地降雨という現象

過去の経験則に基づくなら、梅雨末期とか、台風による豪雨災害は多く経験しているが、今回の前日はわずかな少雨、夜半の悪夢の集中豪雨、そして翌朝は晴れという気象状況。

その上、被災地のエリヤの9割は、広島市安佐南区。しかも、緑井と八木地区という「幅2㎞*長さ6~7㎞」という極めて狭いエリヤに被害が集中した。

豪雨災害の頻発化、激甚化が言われ始めた時期にあって、2014年の「広島土砂災害」が教えた、この「記録的短時間&局地降雨」という現象とは何か?

私は、豪雨災害の新たなステージとして「逃げる暇も与えない凶暴なタイプ」の出現を、目の当たりに学習しました。

■第3部の予告

第2部では、「土砂災害発生のリアル」を紹介しましたが、次回の第3部は今回の続編として、

  • 災害に対する地域の脆弱性。
  • 私が土木人として直ちにとった行動。
  • 救助救援やボランティアの活動。

などについて紹介をさせて頂く予定です。