汚れた土壌を洗う技術「土壌洗浄工法」
株式会社鴻池組 土木事業総轄本部
環境エンジニアリング本部 環境技術部
田村 和広
■土壌汚染はなぜ存在する?
土壌汚染の話題をよく耳にすることがありますが、そもそも土壌汚染は、なぜ我々の身の回りに存在しているのでしょうか。私たち人間は昔から様々な化学物質を活用して産業を発展させてきました。その中には人にとって有害なものもあり、時として人に健康被害を及ぼして社会問題となってきました。例えば、水銀による水俣病やカドミウムによるイタイイタイ病などです。有害物質を含む原材料や排水が非意図的に地中へ漏洩することで土壌汚染や地下水汚染が発生します。2003(平成15)年に施行された「土壌汚染対策法」では、26種類の化学物質が「特定有害物質」として指定されています。(詳しくは環境省ホームページをご覧ください https://www.env.go.jp/water/dojo/law.html )
人にはそれぞれ個性があるように、26種類の特定有害物質にもそれぞれ異なる性質があります。その特性に合わせて様々な土壌汚染や地下水汚染の対策技術が適用されています。そこで、今回より6回にわたって、土木における環境技術「土や水をきれいにする土木技術」を紹介します。
■汚染土壌浄化技術「土壌洗浄工法」
汚れた衣服を洗濯してきれいにするように、「土壌洗浄工法」は汚染された土壌をたっぷりの水で洗ってきれいな土壌に浄化します。土壌洗浄プラントの全景と洗浄機を以下に示します。汚染土壌を回転式の洗浄機に投入してたっぷりの水で土壌を洗います。まるで家庭にあるドラム式洗濯機のようです。洗浄後の土壌は脱水して土砂と廃水に分けます。浄化された土壌は有害物質が残留していないか分析検査によって確認したうえで埋め戻しなどに再利用することができます。
家庭での洗濯では廃水を下水道へ直接放流しますが、土壌洗浄工法の廃水(左下写真)は濁りがあり、汚染土壌から除去した有害物質も含まれているため、そのまま放流することができません。そこで、土壌洗浄工法では、洗浄廃水を高度な排水処理施設で適切に浄化して再び洗浄水として循環利用しています。
■頑固な汚染には無機薬剤を使った高度な土壌洗浄工法
高濃度汚染や特定の有害物質の場合、水による洗浄だけでは浄化できないことがあります。そのようなときには、特殊な無機薬剤を水に加えて洗浄効果を向上させます。頑固な泥汚れには洗剤を使って洗濯するようなイメージです。右の図は、水のみの洗浄では浄化が難しいとされる水銀汚染土壌を、無機薬剤を使った土壌洗浄工法で浄化した事例です。従来の水のみの土壌洗浄では浄化目標値(水銀の土壌溶出量基準0.0005mg/L以下)まできれいにすることができませんが、無機薬剤を使った土壌洗浄では浄化目標値以下にきれいにすることができます。洗浄後には「すすぎ洗い」によって土壌に付着する無機薬剤を洗い落とすため安心して埋め戻し土として利用することができます。
溶媒洗浄の適用事例については、下記のリンク先をご参照ください。
https://www.konoike.co.jp/solution/detail/002359.html?tab=use&slug=facility_environment
■まとめ
土壌洗浄工法は、土壌汚染対策法に定められた第二種特定有害物質(鉛、砒素、水銀、カドミウム、ふっ素などの重金属類)に汚染された土壌の浄化に適しています。前頁写真に示した処理プラントを現地に設営することで、その場で浄化して再利用することができます(現地処理、オンサイト処理と言います)。我が国では、重金属による汚染が問題になる機会が最も多いことが国の調査等によって報告されており、この土壌洗浄工法による汚染土壌の浄化が、安全・安心な暮らしの保全に役立つことを期待しています。(環境省実態調査 https://www.env.go.jp/press/press_01532.html )