核シェルターの話(3)

核シェルターの話(3)核シェルターの話(3)

核シェルターの話(3)

元 防衛大学校 教授
矢代 晴実

「核シェルターの話」の最後として、スイスの核シュエルター仕様で日本において実際に地下核シェルターを建設した事例を、「日本核シェルター協会」のデータより説明します。


スイス仕様の核シェルター事例

核シェルターの普及率が100%以上となるスイスの基準は、政府が仕様を細かく定めています。地下に鉄筋コンクリート構造で建設することが前提であり、壁や屋根のコンクリート厚や必要なスペース、部屋の広さ、天井高、換気装置の設置、吸気口・排気口の位置、非常用脱出口の仕様などが詳細に決められています。

核シェルターに必要なスペースは、①進入路(階段・入口)②気密室 ③除染室 ④シェルター個室 ⑤非常用脱出口 になり、必要な設備は、①防爆扉・耐圧扉・装甲扉 ②換気装置(第2種換気)③衛生設備 ⑤空調・除湿器 になります。

写真1 地下への階段

本稿では、スイス基準に基づいて、日本において建設された日本核シェルター協会の核シェルターの事例を紹介します。

核シェルターの入り口は、写真1のように1階から地下に階段で降り、写真2、写真3のように、核シェルターの入口に防爆扉が設置されています。これは、進入路と気密室(兼除染室)との間に設置されています。外開きを基本とし、爆風の影響を少しでもやわらげるために、進入路の側面に設置します。鉄筋が組まれた鉄扉を鉄筋コンクリートの壁面に固定して、周囲を型枠で覆い(上部を除く)、上部からコンクリートを打設して完成します。ドア厚は200mm、最大耐過圧は1MN/㎡、ドアの外側表面を2時間300度で熱しつづけてもドアの内側表面は15度の上昇にとどまります。

個人住宅から重要施設まで、防爆扉の仕様は同一で、広島型の場合は爆心から800m、長崎型だと900mの距離の場所であれば被害を受けない仕様になっています。

防爆扉を抜けると核シェルター内部になります。最初にあるのが「気密室兼除染室」です。核シェルターは第二種換気を採り入れているため室内を正圧にします。シェルター個室と進入路は圧力差が生じるため、間に気密室の設置が望ましいとされています。また、気密室と同様にシェルター個室の前室として「除染室」も設置します。除染室にはスイスではシャワーやトイレなどの衛生設備が設けられています。

写真2 地下1階の防爆扉
写真3 地下1階の防爆扉

この核シェルターの平面は、図1のようになり、気密室とシェルター個室の間には、耐圧扉が設置され、耐圧扉は核シェルター内部の仕切り扉として使用します。気密室と除染室の間、除染室とシェルター個室の間、シェルター個室間などで使用します。ドア厚は100mm、最大耐過圧は80kN/㎡。

仕切り扉としては、耐圧扉ではなく、防爆扉を使用してもかまわないとされています。また、防爆扉と耐圧扉を同時に開いてはならないという注意点があります。

耐圧扉の奥にシェルター個室があり、シェルター個室は25.5㎡です。床面積基準では収容人数は16名、換気量基準では7名になります。

図1 核シェルター平面

写真4にシェルター個室を示します。シェルター個室の面積は、スイスの規定では、収容人数に左右されず必ず必要な面積が8㎡、収容人数1人あたり1㎡(容積は2.5㎥)、換気装置1㎡、天井高は最小2m、最大3mと定められています。

シェルター個室は、基礎・壁・天井の厚さは、最小寸法300mmの構造で、防爆扉や防爆スリーブなどの防爆ソリューションで、防風・熱線・放射能の影響を防ぐ必要があります。

気密性の高い分厚いコンクリートの箱である核シェルターには外部から新鮮な空気を取り入れるための換気装置が必要になります。

写真4 シェルター個室

写真4のシェルター個室の奥にある、写真5のNBCR対応換気装置が必要になります。第二種換気(正圧)を採用しているため、密閉された空間で換気装置を動作させると、バルブが自動的に開き、排気が行われます。また、防爆に対する機能も必要なため、防爆バルブとしてシェルター外部から過圧がかかると自動的に閉じて、爆風の影響を防ぐ必要があります。

核攻撃ためには、「防爆仕様」+「NBCR対応換気システム」の導入が必須になります。

写真5 NBCR対応換気装置

核シェルターの平時利用として、スイスでは、シェルター個室はさまざまな用途として使われています。三段ベッドを用意して有事に備えている学校の核シェルターもあれば、収納スペースとして使用している個人住宅の核シェルターもあります。公共のシェルターの場合、音楽スタジオやライブハウス、ダンス教室、フィットネスクラブ、地域の集会場として貸し出しているケースがあります。また、一部を備蓄倉庫として活用しているシェルターもあります。

次に、図1の核シェルター平面の左端にあるように、核シェルターには、写真6のような非常用脱出口を設ける必要があります。上部の建築物が崩壊するなどによって、進入路が使用できない時に、非常用脱出口を使用することになります。

そのため、非常用脱出口は崩壊瓦礫堆積範囲外に設け、なおかつ火災範囲外に設けるという原則があります。

進入路が崩壊した場合に使用するので、崩壊瓦礫が堆積して脱出不可能な状態を避け、また非常用脱出口から換気装置の吸気を行うので、新鮮な空気を確保するために火災(一酸化炭素や高温)の影響を避けた場所に設ける必要があります。

なお、換気装置の吸気は非常用脱出口から行う原則があるので、非常用脱出口と換気装置は近接した場所に設置することになります。

脱出口扉は装甲扉と呼ばれ、直接核シェルター外部にさらされるため、性能は防爆扉と同様となります。その最大耐過圧は1MN/㎡、ドア厚は200mmとなっています。耐火性能も防爆扉と同様です。なお、脱出口扉の寸法は定まっており、内寸はW600×H800mmとなります。

写真6 非常用脱出口 

写真7は、非常用脱出口立坑です。これについても、

①立坑は崩壊瓦礫範囲外に設置することを基本とする。

②立坑の平断面は800×900mm以上とする。

③高さ1500mmを超える立坑には300~350mmの間隔でタラップを設ける。立坑が4500mm以上になる場合は踊り場を設ける。

④立坑の壁は鉄筋コンクリート製とし、核シェルターの壁と一体化する必要はないが、壁厚や構造等の仕様は核シェルターに順ずる。

⑤立坑上部の開口部はグレーチング等の蓋やグリルで閉じる必要がある。

等の規定があります。

写真7 非常用脱出口立坑