お城における土木の話(4)

お城における土木の話(4)お城における土木の話(4)

お城における土木の話(4)

アジア航測株式会社事業推進本部
社会インフラマネジメント事業部
大友 正晴

今回は、お城の堀・濠についてお話したいと思います。堀は、山城にもありますが(横堀、堀切など)、ここでは、平山城、平城における堀に関してです。

■堀について

どなたもお城と聞いて思い浮かべる第一が、天守閣だと思います。しかし、その次には、石垣だと思います。この石垣はイコールお堀(お濠)と言っても良いと思います。

この濠にもいくつかのタイプがあります。

◆薬研薬研とは、細長い舟形で、中に深いくぼみがあり、これに薬種を入れて軸のついた円盤型の車で惜しく抱くものです。「どうする家康」で家康が使っているシーンを想いだしてください。

<水堀と空堀>

水堀:もちろん、水をはってある堀です。空堀にくらべ、堀を渡るのを難しくなります。

空堀:山城はほとんど空堀ですが、平山城、平城でもからぼりは有ります。水堀に対して水をはってない堀ですから、渡るのは容易です。

<断面形状から>

毛抜掘:U字型の断面の堀。水堀に使われることが多い。

箱掘:箱型の断面の堀。底が平坦となっており、水堀に多い。

薬研堀:底が下向きに尖った断面となっている堀。薬研の窪みに計上が似ていることに由来しています。底を通ることが困難なので、空堀に使われることが多い。

片薬研堀:薬研堀の片側斜面を切り立ったものとしてレの字型の堀。空堀に使われることが多く、とくに斜面が急なため防御に優れる。

諸薬研堀:薬研堀のうち、両側とも急斜面となっている堀。空堀に多く使われる。防御性にも優れる。

泥田掘:深田の田圃を使った堀。興国寺城では深田足入と呼ばれ敵の侵入防止に有効とされていました。今でも、付近にはところどころに池や沼となって残されているそうです。

畝堀:堀底に土(水田の畦道に似てます)手を残して堀内障壁として攻め手の動きを制約します。伊豆の山中城で畝掘りは実際に見られます。

障子掘:畝掘りの発展した堀。畝掘りで見られる堀底の障壁を障子の桟のようにして敵の侵入を防いだ構造をしています。「ワッフルのような」と説明している例もありますが、まさに的確な説明だと思います。空堀でも水堀でも使われていたとみられ、後北条氏の城(山中城の他に小田原城、岩槻城など)でもよく見られます。また、大阪城、松江城などでも見られます。

この他にも諸薬研堀などと呼ばれる堀もあります。形状とは別に堀の場所により内堀、中堀、外掘、惣掘と呼ばれたりもします。これらは、城の縄張りとの位置関係から呼ばれるもので江戸城の外濠、内濠など分り易いですね。

■堀の斜面の石垣について

堀の斜面は一般的には土羽となっていますが、より防御を強化したのが石垣となります。しかし、石垣を斜面全体に築くには、膨大な石材、費用と労力が必要です。

そのため斜面の一部に石垣を設置した以下の形式があります。

鉢巻石垣と腰巻石垣がそれです(右図参照)。

鉢巻石積は、土塁の上部に積んだ石垣です。土塁のみの場合、土塁の天端は土を固めただけとなり防御面では、もろいものとなります。そこで、石垣を積んで耐久性・防御性を高めたのが鉢巻石垣です。

腰巻石垣は、土塁の下部に積んだ石垣です。水堀の場合など土塁の足元は、水による浸食などにより崩れやすくなります。そこで、土塁下部に石垣を積んで補強したのが腰巻石垣です。現代でも、腰積みとして石積みの他にコンクリートブロック積み、コンクリート擁壁などで水に面する箇所(堤防や川岸)の斜面の足元(のり尻)を崩れたりしないよう補強するために設置しています。

大阪府HPより

右の写真の大阪城のように石垣全て覆うことが理想ですが、江戸城や彦根城のように鉢巻石垣と腰巻石垣の組み合わせた構造の場合も、先に上げた理由などからよく見られます。

江戸城半蔵門から桜田門にかけて内濠沿いの内堀通の歩道からの眺望では腰巻石垣が見られると思います(右写真参照)。鉢巻石垣については、樹木がありほとんど見られないのですが、たまに樹木の間に垣間見ることができます。散歩がてら見つけてみては如何でしょうか。

半蔵門から桜田門方向(無料写真画像)

■堀の幅について

皆さんは、右の江戸城桜田濠の写真を見て濠の幅が極めて広いと思われるでしょう。この濠の幅・広さはどうやって決めているのか。もちろん、地形的な要素はありますが、お城なので防御面の理由もあります。戦国時代の武器と言えば、弓矢や鉄砲となります。一般に、弓矢の有効射程距離は概ね30~50m、鉄砲の場合は50~100mくらいと言われています。したがって、堀の幅はこの距離を目安に造られていることが多いと言えます。

以上のように、堀(濠)は、お城の防御のための施設です。これをさらに強化したのが、石垣になります。次回は、その石垣の積み方についてお話します。