「これも土木」を発見する話(4)

「これも土木」を発見する話(4)「これも土木」を発見する話(4)

「これも土木」を発見する話(4)

(特非)シビルNPO連携プラットフォーム 理事
NPO法人州都広島を実現する会 事務局長
野村 吉春

はじめに

今回のこの「これも土木」というシリーズは、土木への新たな魅力発見を目的としています。

市民社会に向けて、「土木は身近なところにあって、日々の暮らしに大切な役割を果たしているんだ!」という理解を頂き、建設界に向けては、土木が専門化・高度化してゆく中で、「土木の幅広い役割を再発見してほしい!」との希望を託しています。

「見た目での認識」というルーツから論じた第2話と第3話は如何でしたか? 

筆者が想定するに、前回第3話「この国のかたち」と、その前第2話「土木工事の現場」の話はやや極端なので、「この二つの話を一つのルーツで理解することは出来ん!」との指摘もありましょう。そこで、今後の第4~5話でもって、その中間を丁寧に埋めるように努めます。

第4話は、「地域のかたち(前編)」=「これも土木」を筆者と共に論考しましょう。

読者各位が、今回の論考を通して、「今後の土木の盛衰を占うほどの重要性」を確認・発見して頂ければ、筆者としてこの上ない喜びとするところです。

●第2話の主な論点と論考

まずは、第2話「身近な土木工事の現場=これが土木」について、もう一度整理し論考します。論点を並べ出すと10も20もあるわけですが、ここでは敢えて数点に絞り込んでいます。

 主な論点論 考
1「土木」って何なの?「土木=土木の工事現場、土木作業員のこと」・・・という理解が一般的で、市民社会の半数以上、女性に限れば8割以上に及ぶのではないでしょうか。新聞やTV報道で報じられる事件での、「職業;土木作業員」という表現が、悪い印象に繋がっています。
2「土木」を知らない「土木」は単語として捕え難く、一般市民になじみが薄いVS 「建築」の方が理解されやすい。(*2.1)一般市民は、自分の住んでいる近場の土木工事しか知らず、他の市町村には関心が無い。(*2.2)
 3土木は無駄なのか「土木=公共事業=無駄な事業が多い」・・・という理解が浸透し、インフラ慨成論にも繋がっている。(*2.3)

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見た目の印象づけ子連れの母親の言う「○○くんも・・・」の話は、「子どもに対する土木の悪い印象づけ」として、また「土木への間違った理解」を与えており、非常に問題です。子どもへの「土木教育」のあり方の重要性を、改めて再考する必要があります。(*2.4)
5バカがやる仕事という職業観土木作業の「土工」には専門性を問われないが、重機、鉄筋、型枠・・・等々には技能士、検定試験などを要するが、(興味の無い)一般市民は何も知りません。
6就職情報サイトの不人気度甚だ不快感をいだくのはこれ。就活情報サイトにおける「底辺職業ランキング」に建設・作業員が何と「1位」としてU-tubeにアップされていることです。(*2.5)・・・が、ここは一旦冷静に受止めて置くことが重要です。

●少し補足します。

(*2.1) まず最初に、土木学会において、「土木」という語源を深く研究され、我が国の「国語辞典の改訂」に至るまで、粘り強く実現された関係者に厚く敬意を表します。

大学の学科名調べ

「土木」の表記が消えて久しいなか、最新の進学情報によれば、「土木か建築が選べる大学」が144校あることが判明。

「都市」「環境」「デザイン」・・・とキラキラ感が目立つ中で、「土木」の名称を表記する大学が24校、参考までに「建築」という表記は100校という状況。「土木」は一時期よりも復活傾向か?

(*2.2) 地域への関心

普通の市民は、地域のことをどのような範囲まで知っているかを、皆さんご存じですか?

右の図は、土木学会誌(令和3年8月号)に掲載されている表です。

内閣府の世論調査を元に作成したとの注記ですが、これに回答できる人は、ある程度意識の高い人だろうと考え、この数値は半分以下に割り引く必要があります。

つまり、筆者の肌感覚では、市民は通常「自分の行動範囲」しか関心がなく、自分の行かない地域のことは知らないし、関心がありません。

(*2.3) インフラ概成論

「インフラ概成論」とは、インフラは十分整っており、今後の予算や投資は不要という考え方です。

国民への説明を補うべく、「筆者の日常的な感想」を列記します。

  • 「土木=公共事業=無駄な事業が多い」との表現は、マスコミの人気取りにされている。
  • 若者よりも高齢者や女性に、「福祉重視⇒無駄な公共事業」への批判となる。
  • 「都市部VS地方部」では、事業への採算性の捉え方が異なるようだ。
  • 筆者の住む中国地域では、山陽の都市部以外では高速道路の未成区間が多く、暫定2車線とか、時速70kmまたは60km規制が大半。こんな代物を高速道路と呼ぶ国は日本だけ。
  • 「人口減少=公共投資が不要」・・・こんな発想では貧乏国にいち早く脱落するコト必死。

(追記) 後で、日本と海外のインフラの比較を別途(*3.1)で述べるので参照されたい。

(*2.4) 土木教育のあり方

「土木の進化・発展=優秀な人材確保=専門教育の改革+小中学生への取り組み」・・・という発想は、既に土木学会を中心に、各支部や各委員会でも幅広く共有され、各種の活動が実施されています。

市民現場見学会

また、日建連でも2002年から「土木工事の現場見学会」を開始して15年目の2017年には新国立競技場の現場で300万人を達成した。次の目標を「参加者500万人」に設定しているところである。

現在、我国の小中校生は920万人なので、30~50%の参加割合になる?・・・ぼちぼちその成果が現れてくれることを期待したい。(重要)

(*2.5) 土木・建設作業員が「底辺職業ランキング1位」のU-tube画像

データーは就活情報サイトから得ている。

ユーチュバーの何方かのカウント数の稼ぎに協力する結果となるがやむを得ません。

甚だ不愉快だが、こうした言論を建設界として一旦、飲み込んで置かないといけません。(重要)

大学生の進路希望調査より

昨年の11月21日の東洋経済新報社(主催)の、「建設界のDX推進に関するWeb講座」を受講した際に、冒頭に登壇された建山和由教授が「大学生の進路希望調査」の資料を提示された。

この調査では、「大学生275名の内、建設業を進路に考えている学生はたったの2名であった」・・・との説明には唖然とするほか無かった。

筆者は「これは何かの間違いであろう」と考えるけれども、建設業が下位に位置することは確かなのだろう。

建設界の「人材不足問題」は超・喫緊の課題ですが、併せて「優秀な人材確保」が出来ないと、この業界は確実に衰退する。

(ここの危機感が重要!)

●第3話の主な論点と論考

次に、第3話の「この国のかたち=これも土木」についてもう一度、整理し論考します。

 主な論点論 考
1目に見える営み(先達に敬意を払うべく・・・)狭い国土や急峻な地形を克服した、我国の土木技術は素晴らしい。しかし、世界に目を移せば、90年代以降の日本の停滞した30年間に、海外では著しい土木技術の進展と巨大な事業が展開され、これが地域経済を牽引し、国力の強化をもたらしてきた。(*3.1)
2目に見えない営み「土木」とは何かという問いに、以下の四つの捉え方を試みました。一つ目は「範囲の問題」。前掲に述べたように一般の市民は自分家の近くの土木工事しか知らないし、見ることのない他所には興味が無いという実態があること。二つ目は「土木作業員」だけ? どんな工事も「起案する人」「予算化する人」「調査や設計する人」「工事を請負う人(契約事務等)」「作業員や資材、機材の手配をする人」・・・見えない多数の営みを知らない。三つ目は「土木」の広がり。「橋は建築家が設計しているのよ!」・・・こういう声に絶句するが、「技術士の建設部門」だけでも、11の選択科目があり、色々な業種が含まれるが、一般市民には知るよしもない。(*3.2)
3Supraに目を向けよ四つ目の目に見えない営みがSupraです。前回お示しした土木の三角形の仕組み。我々の社会の上部構造=Suprastructureに目を向けて頂きたいのです。建設界が、社会の下部構造=Infrastructureだけを語るより、その上部で営まれる経済、観光、交流、文化、教育・・・等々Suprastructureへの無限循環を語らないと機能や意味が伝わりません。
4土木に戦略があるのか「戦略なき土木って、いったい何ですか?」「土木の戦略=Strategystructure」とは、この国への思いであり、国家戦略、地域戦略などを指し、「この事業は何のために行うのかという物語」のことです。我々に最も欠けているのが土木の戦略です。(*3.3)
5「この国のかたち」を論じよう「この国のかたち」とは、狭い範囲で使うと「国土計画」という風に理解されるでしょう。しかし、筆者の描く「この国のかたち」とは、「国土計画」という「かたちのあるモノ」を描く前に、論じるべき「目には見えないコト」があるという発想です。そのためには、日本の置かれている地政学、環境、気候、人文・社会、この国の歴史・・・を押さえ、「政治、生活、経済、文化、教育、情報・・・」の在り方を論じながら、「この国のかたち」を描いていきたい!盛り沢山のようですが、目的や内容に応じて、「重要な論点を絞って論じる」ことが必要でしょう。
6「土木の物語」を語れ前掲の話を産業界で語れるのは、総合性のある建設界をおいて、他に誰が語れるのでしょうか?大変に無理な注文のように見えますが、「土木が市民から信頼を受ける」には、未来に希望が持って、楽しく、魅力的な「土木の物語」が必要だと考えます。前回の司馬遼太郎氏の「土木学は・・・」という発言の主旨は、前掲のような土木人への使命感を語っています。

●少し補足します。

(*3.1) 海外の建設界は、高速道路、新幹線、橋梁、ダム、港湾、再生エネルギー、・・・あらゆる分野でビッグプロジェクトへの挑戦が行われてきました。このような趨勢を大多数の国民は知らないし、建設界は知っていても語らず・・・という、「この国の閉塞感」に筆者は不快感を抱きます。

参考までに、ダムと橋梁(吊橋)の2例の世界順位を見て下さい。

出展はWikipediaです。

中国が目立つのですが、新幹線の総延長は日本の10倍。 下図は世界最長の海上橋は中国の港珠澳大橋(こうじゅおうだいきょう)49.968kmです。

(*3.2) 技術士の建設部門とは

建設部門の選択科目は、11科目(土質及び基礎、鋼構造及びコンクリート、都市及び地方計画、河川・砂防及び海岸・海洋、港湾及び空港、電力土木、道路、鉄道、トンネル、施工管理、建設環境)。これは、建設界だけが知っており、一般市民の誰でも「建築士」を知っているが、「技術士」は知らない。

(*3.3) 建設業界は日本の縮図

最後に、「建設業界の動向とカラクリ」(阿部守著)より、第1章のタイトル及び引用です。

「建設業界は日本の縮図そのもので、日本にいま一番欠けているのは日本全体をどのようにもっていくのかというビジョンですが、建設業界に求められるのもまったく同じです。建設業界の将来像を描くことが求められています。」・・・これは、今回の第4話の論旨を言い当てています。

*次回の予告 ; 第5話は今回の続編として、「地域のかたち(後編)」=「これも土木」をなるべく具体的にローカルな事例を通じた「解決編 を目指す」ことで、一旦中締めとします。