「これも土木」を発見する話(3)

「これも土木」を発見する話(3)「これも土木」を発見する話(3)

「これも土木」を発見する話(3)

(特非)シビルNPO連携プラットフォーム 理事
NPO法人州都広島を実現する会 事務局長
野村 吉春

はじめに

今回の第三話は、お約束通りに「これも土木」というお宝を示します。

はじめに結論を申します。「この国のかたち」=「これも土木」と筆者は考えます。

第一話では、「これも土木」というお宝探しのルーツを7本くらい提示して、次の第二話では「肝心なのは見た目でしょ!」ということで、身近な「土木の工事現場」を紹介しました。

今回の第三話のお宝捜しへのルーツも、前回の「見た目での認識」の延長にあるものとして、「この国のかたち」というお宝について、皆さまと一緒に考えようという話です。

●「この国のかたち」はドウ見えるか?(https://www.google.co.jp/intl/ja/earth/about/ )

右図はGoogle Earthが捉えた「この国のかたち」ですが、読者の皆さんには、どのように見えるでしょうか? 少し広い範囲が見えるので、近隣諸国との地政学的な関係も気になりますが、まずは、「この国のかたち」に注目しましょう。

四方を海に囲まれた国土面積約37.8万㎢(世界61位)の小国です。東西南北ともに約3000kmなので、国土の平均幅は63kmと試算される細長い地形です。

このGoogle Earthをズームアップすると、国土の75%が山地で65%を森林が占め、平地部は25%(面積約9.5万㎢)しか無いという地形的な特徴に誰もが気づきます。その狭い平地に、鉄道や道路等が敷かれ、市街地や農地が拓かれています。この国のインフラ整備(Infrastructure)への大変な努力が見えます。

●インフラは目に見える成果!

「この国のかたち」とはそういう話なのか? その通りですよ。建設界はインフラ整備を通じて、市民社会の安全や経済基盤を守るという「縁の下の力持ちの役割を営々と発揮してきた。」 我々は、これを「地図に残る仕事」として誇りとしてきたのです。

しかし、このような「見た目での認識」を述べても、このコラムのやや辛口の読者には余り喜んでもらえないかも。「世の中はなあ、そんなに甘くはないぞ!」との忠告を受けそうです。

世の中には既に「インフラ概成論」や、「インフラへの忌避観」があり、下手をすると「インフラの話はもういい!」といった反応すら有ります。筆者の主催するNPOは、建設界よりも市民社会との接点が多い中で、「インフラ・アレルギー」の患者に多数面会しているので、筆者自身は世間に向かって軽々に「インフラの必要性」を声高には叫びません。

●目に見えないコトがある?

そこで筆者は、土木人は目に見える「モノ=ハード」ばかりを語っていたんじゃダメだと思います。つまり、目に見えない「コト=ソフト」の営みを重視せよ。例えば、市民社会の生活、政治、経済、観光、交流、文化、教育、歴史・・・等々への営みを語る能力がないと、市民社会へのインフラの説得力を持ちません。(重要)

これは一例ですが、「竹村公太郎氏」は河川行政のプロ、現・財団法人リバーフロント理事長による、右図の「日本史の謎は地形で解ける(3部作)」は実に面白い!

それは何故だろうか? 以下に、著作の一文から「土木技術者の一般市民への誤解」という話を要約しよう。

「インフラの説明」となると、みんな「構造物の説明」をしているが、一般人には構造的な説明など余計なことで、構造よりも「その機能の説明」をしなければならない。しかし「機能の説明」となると、専門知識に精通し、更に社会、経済、文化、歴史等への深い洞察力が要求されると語っている。氏は自らそのような体験を通して、これが、複数の著作を書くきっかけになったと述懐している。

●土木をインフラだけで語るな!

(以下の話は、既にいろいろな所で語っているので、聞き飽きた方はスルーしてください)

この右図は、「土木の体系=野村Original版」です。以下に三層への簡単な解説をしておきます。

●何故に、こんな体系を?

一言でいって、「土木には、いったい何処に戦略があるのか?」 という疑問からです。

左上の愛読書「戦略が全て」(滝本哲史)による、 軍事工学(Military Engineering)では、「①戦略(Strategy)」が最も重要であって、次に「②作戦(Operation)」、そして「③戦術(Takutelikusu)」が明確に区分され、決して混同されることはないという。 軍事工学の仕組みを参考に、(①②③の順序は逆になっていますが)市民工学(Civil Engineering)における「土木の体系」を描いたのが右図の三層構造です。 この図は、どなたにも違和感なく理解いただけるものと自負しています。

●三層構造への説明

三層の定義簡単な説明
インフラ(Infrastructure) =下部構造あるいは社会基盤という意味「土木=インフラ」というのが、多くの共通認識だろう。 「造ってなんぼ」という「モノづくり」を中心とした、「フローの経済」を構成する要素。 建設界においてはインフラを「造ること」や、「守ること」(維持管理)。これが目的化し、「我こそが縁の下の力持ちである」として、インフラを声高に主張しても、市民理解を得られにくいジレンマがある。インフラとは、市民社会にとっては「手段」であって「目的」ではありません。(そこを勘違いしてはいけません!)
次に、スープラ(Supra) =上部構造という意味が理解されているだろうか?インフラの上で営まれる経済、観光、交流、文化、教育・・・等々の活動を指す要素。 これは市民社会が享受する「ストックの経済」である。 つまり、土木の本来の目的は、市民社会への安全・安心な暮らしや、豊かで幸福な社会活動を提供し、建設界は、その成果に責任を持つ必要があります。しかし、建設界が利活用の領域に関与するケースは少なく、未だに「造って何ぼ」の請負型の産業構造に留まっている。
最上位に、戦略(Strategy)という行為があるのか?軍事部門では「戦略」は最上位に位置づけられている。しかしながら、「戦略」ということを「語れない土木」、それを「語らない建設界」とは、いったい何者なのか? 土木の最上位にある「戦略」とは、国土政策であり、地域政策、地政学、企画構想等で、この最も重要な部分に、重大な脆弱性があります。
*実は、私のNPOは及ばずながらですが、③の「地方圏における戦略」を支援しています。

●そこで、建設界に求めたいこととは!

要するにこの三層構造が示すように、我々は機会あるごとにインフラの重要性を訴えてはいるが、最下層に位置するインフラは社会の下部構造(Infrastructure)と言うだけでは市民社会の関心を引きにくいし、一部に誤解すら持たれている。そこでドウするという問題な訳です。

一つ目は、社会基盤というインフラを通して、上部構造を成すスープラ(Supra)への無限循環=市民社会への安全・安心な暮らしや、豊かで幸福な社会活動に直結しているかを、お堅い説教ではなく、夢のある「土木の物語」として語るインタープリター(Inta-puriter)を求めたい。

二つ目は、今や我国の産業構造が「モノ経済からコト経済へ」と大転換が進みゆく中で、建設界のビジネス領域をインフラだけに留まらず、スープラの領域に拡大する具体的な活動「CaaS=Construction as a Service」への挑戦を求めたい。

三つめは、(今回の末尾でも触れるが) 「この国のかたち」を考えるという、最上位に位置する戦略(Strategy)については、土木学会誌でさえ活発な議論が聞こえてこないのは如何したことか? 筆者の考えは「どこの誰が」「どのような場面で」「どんな構想をも」どんどん語って良い。そんな大胆な自由を読者の皆さまに求めたい。

●そもそも「この国のかたち」って何だ?

今頃になって、「話の順序が違うだろう?」とお叱りを受けそうですが、実は「この国のかたち」という表現は、筆者が20年も前から使っており、たまたま右図の司馬遼太郎氏の著作名と一致したまでです。

しかしながら、氏の描かれる「この国のかたち」は、この国の政治、経済、文化、教育、歴史・・・等を通じた、「日本という国家」や「日本人の国民性」への洞察力は、総発行部数1.7億冊の巨人ならではの深さに感銘を受けつつも、ベクトルは共有しています。

●土木と文明

古い文献ながら、土木学会誌の1975年1月号に、司馬遼太郎氏(左)と当時の編集委員長の高橋裕氏(右)の対談「土木と文明-歴史は我々に何を教えるのか」が掲載されています。

あの時代を代表する二大巨頭の対談の中で、筆者が最も深く感銘を受けた言葉は、

司馬遼太郎氏の 「土木学は、人間の行動原理と国土についての哲学である。

哲学的な使命感が無ければこの国は滅びる。」という発言です。

我々は、はるか半世紀前という時空を超えて、この言葉の重さをしかと受け止めたい。

●「この国のかたち」を誰が論じるのか!

今年の土木学会誌5月号、神戸大学小池淳司氏の論文「理想の国土の姿を描く意義」を参照しました。

右図に示すように、短期的な事業は①定量的理解をもって執行され、中期的な事業構想は②客観的理解でもって計画される。しかし、10年以上~50年といった、中長期に及ぶ「この国のかたち」は③主観的理解に該当する。

では「この国のかたち」は、いったい世の中の誰が描いているのだろうか? これは、如何なる分野のお方でも、社会、政治、経済、文化、教育、歴史・・・等々への見識があれば、誰が論じてもよいが、そんな勇気ある論者は少ない。筆者は、そんな中で土木人は最も総合性を有する職業なので、常日頃から気軽に理想の国土を話し合い、議論する場面が、数多く誕生することを切に望んでいます。

*次回の予告編 ; 今回の「この国のかたち」と前回の「土木工事の現場」は、両極端だったので、第4回目の「これも土木」シリーズは、その中間を埋めるべく「地域のかたち」を描きましょう。