認定NPO法人道普請人 副理事長
福林 良典
■想像してみてください
あなたの住む村に電車もバスもなく、町の中心部に行くには、この一本の農道しかありません。しかし雨季になると、その道の至る所には大きな穴とぬかるみがあらわれます。車やトラックがはまってしまったり、水汲み帰りの子供たちが転倒してしまうこともあります。学校、病院、市場はこの農道の先なので、病人や妊婦を乗せたバイクも、重たい農作物を積んだ農家の自転車も、この農道を通らなければなりません(写真1、2)。また、道が悪いと村に人が来てくれません。作物の仲買人のトラックがこの村に来ることを拒むこともあります。悪路が貧困からの脱却を遅らせているのです。


■「自分達の道は自分達で直せる」という意識を広げたい
途上国の農村の、ほとんどの道は舗装されていません。悪路に長年悩まされている村が世界にはまだまだ沢山あります。京都大学木村亮名誉教授(本NPO法人理事長)は1993年に専門家としてケニアに赴任して以来、工学者として開発途上国の人々の幸せに貢献する方法を考えてきました。そして、10年間で15回にわたる現地訪問や活動を通して辿りついたアイデアが、「土のう」工法でした。「土のう」は、その土地で集められるものを材料として、簡単な技術で農道やため池などを整備する「1つの工夫」です。土のうの技術を現地住民へ普及する事によって、彼ら自身で彼らの生活を守れるようになり、「自分達の道は自分達で直せる」という、自信とやる気が生まれます。そういった、自分達の力で前へ進もうとする気持ちを引き起こさせる事こそが、私達の役目であり、使命であると思っています。



■私たちの現場活動
道直しに使う道具や材料は、現地で調達できるものを使います。村人達は普段使い慣れている道具を使うので、仕事を覚えるが早いです。そして、何より信じられないくらい力持ちなので、どんどん土を掘り、どんどん土のうを運び、どんどんコンパクター(土を突き固める為の道具)で土を固めます。すべて手動ですが、あっと言う間に作業が進み、道がよくなっていきます。息切らしながらでも、汗をかきながらでも、いつも現場は彼らのおしゃべりと笑い声でいっぱいです。ラジオを現場に持っていくと、そこから流れる音楽で作業しながら踊り出す人もいます。現場で彼らと共に働くと、彼らの底なしの明るさや、たくましさに私達はいつも励まされます。彼らに道直しの技術を教えると、そのお返しに彼らが私達に教えてくれる事は、何事にも代えがたい、何よりも心を豊かにしてくれるものです。


■「土のう」から”Do-nou”へ
サブサハラアフリカの活動国では、現地道路行政と協力して、工法のマニュアル化や職業訓練校でのカリキュラム化を推進しています。現地の文書には「Do-nou technology」と明記されています。
■人々のくらしの変化
道直しにより、農作物の出荷量が増えたり、沿線に新たに幼稚園が作られるなどの変化が確認されています。道直しの技能を身に着けたことで、建設会社を設立し事業拡大に成功している事例もあります。一部の声を紹介します。
ウガンダMr.Kasirivu Mosesの場合
道直しの後は作物を腐らせずに市場に出荷できるようになり、収入が向上しました。仕事を手伝っていた子どもは,現在学校に通っています。今は、子どもたち全員を大学まで行かせるという夢を持って、日々仕事に励んでいます。

ケニアMr. Emanuel Kandireの場合
仕事も見つからず、将来に希望すら持てませんでした。道直しの研修に参加できたことがきっかけで、スラムに住むユースグループの仲間と小さな建設会社を設立しました。今では、国から道路工事を受注できるまでになりました。道直しが僕の人生を変えてくれました。

■くらしの豊かさに向けて広がる活動
道路条件を踏まえて、土のう工法以外でも最適と考えうる工法を、現場で人々と一緒に考え実践しています。また、日本政府や民間団体からの助成の獲得や、国連機関や世界銀行からの事業受託、教育、保健、コミュニティ開発分野で活動するNGO等との連携が進んでいます。



急こう配部での
コンクリート舗装
■国境や世代を超えて広がる道普請「人」
ケニアやウガンダ等では、現地事務所を設置し、現地スタッフとともに活動を行っています。そして、日本のシニアエンジニアに、専門家として現地での技術指導を行い、活動に貢献していただいています。また、関心が高くホームページを通して問合せのある大学生や高校生をインターンとして現地事務所で受け入れています。


私達「道普請人」の活動である「現地の人と行う道直し」は、その先に思いがけない喜びが待っていたりします。私達はいつもその瞬間に出会える時を思い浮かべながら、新しい村に出かけます。


本活動にご関心があり、一緒に活動をしてみたい方、本活動にご協力いただける方は是非、以下団体ホームページの問合せ先からご連絡ください。
認定NPO法人道普請人 https://coreroad.org/