微細な気泡で水質を浄化 「ウルトラファインバブル」
株式会社鴻池組 土木事業総轄本部
環境エンジニアリング本部 環境技術部
松生 隆司

■ウルトラファインバブル(UFB)とは
ウルトラファインバブルをご存知でしょうか。シャワーだけで体に塗った油性マジックを落とすテレビCMなどで耳にしたことがある方も多いかと思います。ファインバブルとは、図-1に示すように水中で浮上せずに分散する微細な気泡のことで、その粒が直径1~100μmの大きさのものをマイクロバブル、直径1μm未満のものをウルトラファインバブル(UFB)と言います。マイクロバブルは、1990年代末頃に牡蠣養殖での成長に効果があることで注目されて利用され始めました。2004年頃には、さらに小さい1μm未満のUFBに様々な特徴や効果があることに新たな注目が集まり、微細な気泡を作る技術が日本発の革新的技術として産官学一体で研究開発が進みました。
UFBは、中心的な径が約0.1μmの目に見えない気泡ですが、グリーンレーザー光を当てるとレーザー光が散乱して光の軌跡で気泡の存在を確認できます(写真-1)。気泡は分散した状態で数週間から数ヶ月間にわたって水中に残存することができるといわれています。UFBには、界面活性作用やガス貯蔵作用のほか、生物の機能にも作用する性質を持っており、薬品を使わない環境浄化や資源消費削減の面でSDGsへの貢献が期待されています。

(出典:(一社)ファインバブル産業会HP)

(出典:(一社)ファインバブル産業会HP)
■UFB発生装置
UFBを作る方法はさまざまありますが、ここでは、大容量のUFBを発生させることが可能な「フォームジェット」と呼ばれる装置を紹介します。箱の中で激しい噴流を発生させると、部分的に圧力差が生じて気泡が発生する「キャビテーション」という現象が起こります。さらに撹拌渦(写真-2)との効果で箱の中の水と気体に強い力が働いてUFBが発生します。
この装置は濁った泥水でも使用できます。

UFBの存在確認

■土木・環境分野でのUFBの活用事例
1)難分解性物質の処理への活用 廃棄物の最終処分場では、雨水などの浸出水を浄化して排出します。その浸出水中に非常に分解が難しい 1,4-ジオキサンと言われる物質が含まれることがあり、その処理には高価な設備が必要となります。その処理にUFBを適用し、コンパクトでメンテナンスが簡便な処理方法を開発しました。写真-3は現地で行った実証実験の様子です。空気ではなく、酸化力の強いオゾン(O3)を使ったオゾンUFBを用いることで、水中の1,4-ジオキサンを環境基準以下に低減できることを確認しました。

(2)自然由来のヒ素を含んだ泥水の処理への活用
土木分野では、シールド工事で地盤中に存在する自然由来のヒ素に遭遇することがあり、掘削時に発生する泥水に土壌環境基準を超えるヒ素が含まれる場合があります。その他、湖沼や堀などの浚渫土の中にヒ素が含まれている場合もあります
ヒ素は、土壌中の鉄分(水酸化鉄)とくっつきやすい性質を持っていますが、pHがアルカリ性になったり、還元雰囲気(酸素がない状態)になったりすると水に溶けやすくなります。pHを酸性~中性にすることでヒ素と鉄は安定して吸着し、ヒ素を溶けにくくすることができます。pHの管理は酸添加により行いますが、さらに酸素UFBを用いて泥水の溶存酸素を増加させることで酸化促進を図ることができます。

次にお城の堀での活用事例を紹介します(写真-4、5)。このお城では、堀に堆積した泥による悪臭や堆積物の露出による景観悪化の対策として定期的に浚渫を行っています。この堀の効率的な浚渫方法を検討した際、堆積物に自然由来のヒ素が含まれているため浚渫土が土壌溶出量基準を超過する懸念がありました。その対策手法として、オゾンUFBによる酸化促進と鉄系凝集剤の添加により堆積物に含まれるヒ素の安定化を図りました。さらに処理水に酸素UFBを供給して高濃度の溶存酸素水を生成して堀に戻すことで水質向上を図りました。

(3)湖沼における水質・底質の改善への活用
水質悪化でアオコが発生している湖や沼において、高濃度の酸素を湖底に供給してアオコの発生抑制や、水質および底質改善を検証する実証モデル事業に酸素UFB発生装置を適用しました。過飽和に酸素が溶解し、かつ酸素UFBを含んだ噴流を18ヶ月間にわたり湖底に供給しました。酸素供給の影響は40m沖合まで及び、表層と底層の溶存酸素(DO)が均質化される効果を確認しました。また、底質はヘドロが減り、砂分が増加するなどの性状改善が認められました。酸素UFB噴流の吐出部付近では魚影が多く見られ、水生・底生生物の生息を確認しました。これらの調査で酸素UFBの供給が湖沼の環境改善に確実に寄与していることが確認されました。



今後もこのUFB技術を活用し、水質や環境改善の一助としていきたいと思います。