「御用聞き」がつなぐ、学校・地域・家庭の防災 新潟県長岡市における持続可能な防災教育体制

「御用聞き」がつなぐ、学校・地域・家庭の防災 新潟県長岡市における持続可能な防災教育体制「御用聞き」がつなぐ、学校・地域・家庭の防災 新潟県長岡市における持続可能な防災教育体制

「御用聞き」がつなぐ、学校・地域・家庭の防災
新潟県長岡市における持続可能な防災教育体制

NPO法人ふるさと未来創造堂/常務理事兼事務局長
中野 雅嗣

■1.はじめに

近年、激甚化する自然災害への対応は、地域社会全体の喫緊の課題となっています。災害から命を守るためには、一人ひとりが防災意識を高め、主体的に防災活動に参加することが重要です。

私たちは、わくわくする「防災共育」をきっかけに、地域一体での教育・共育社会の創造を目指すNPO法人です。学校・地域・家庭共通の課題である防災・減災は、連携の必要性を実感できる題材でもあります。子どもも大人も皆で学び合う防災“共”育の推進を核に、レジリエントな人づくり・まちづくりの実現に取り組んでいます。

本稿では、新潟県長岡市における、学校・地域・家庭が連携した持続可能な防災教育体制の構築について、当法人の取り組みを紹介します。

■2.事業背景

新潟県は2015年2月に小・中学校等に新潟県防災教育プログラムを配布しました。しかし、学校現場は多忙化が深刻化しており、プログラムの実施が現場の負担を増大させる可能性もありました。そこで、長岡市では市民協働の枠組みから生まれた提案を市の政策として事業化し、当法人がその事業を受託しました。

2004年に発生した新潟県中越地震の被災地長岡市では、学校現場の負担を軽減しつつ、地域と連携した持続可能な防災教育の推進と支援体制の構築【図-1】に取り組み、現在8年目になります。

■3.事業内

長岡市では、以下の5点を中心に取り組んでいます。

① 行政の防災部局と教育部局とが連携し、市立全81小・中学校に毎年更新する防災教育教材「長岡市防災玉手箱」を設置

② 活動事例の情報発信と学校防災教育の相談にワンストップで対応する総合相談窓口の設置

③ 「御用聞き」による毎年の資料の差し替えを兼ねた学校訪問とヒアリング、防災学習支援

④ 「御用聞き」及び「防災共育サポーター(防災学習支援者)」の育成と活用

⑤ 長岡版マイ・タイムライン「わが家の防災タイムライン」など、市独自の防災教育教材の開発

図-1 新潟県長岡市における
      持続可能な防災教育体制の概要

活動の最大のポイントは、中学校区に配置している「御用聞き」の存在です。「御用聞き」とは、学校所在地域に詳しい方や防災士等が一定の研修を受けた後、毎年各校に設置されている教材のメンテナンスのために担当校を訪問する役割【図-2】を担います。「御用聞き」が訪問して教材の差し替えを行うことで、全校の教材を常に最新の状態に保てるだけでなく、学校の管理職や防災教育担当者と顔を合わせる機会にもなります。その際、教材の活用方法や地域の災害リスクの紹介、防災教育に関する困りごとのヒアリングなどを行い、新任の防災教育担当者には長岡市の教材や支援体制の仕組みについても説明します。

図-2 「御用聞き」による教材の
      メンテナンスを兼ねた学校訪問

富山の薬売りをモデルにした「御用聞き」【図-3】は、「語り部ができます!」「○○災害の防災学習に取り組みましょう!」など、学校に防災学習を押し売りすることはありません。「御用聞き」が聞いた相談や訪問後の個別相談への対応、学習のサポートは全て当法人が主体となって行い、防災学習の実施時には担当校区の御用聞きや防災共育サポーター、地域住民等を可能な限り巻き込み、皆で学校防災教育を支える活動にコーディネートしていきます。

また、訪問時に御用聞きが知り得た情報やその後のサポート履歴は、学校ごとのカルテとして整理・蓄積し、御用聞きとも情報を共有することで、学校の担当者の転出時にも取組の継続性も支えています。

図-3 学校・地域・家庭の防災教育を
      つなぐ「御用聞き」とは

■4.事業効果

試行錯誤しながら積み重ねた7年間。支援体制の活用により、各校の地域・家庭と連携した防災教育の取組やその支援【図-4】は右肩上がりで増加【図-5】した他、様々な効果が見えてきました。

●「御用聞き」の学校訪問から窓口相談につながっている。

● 中学校区全体で小・中学校が休日を授業日にし、地域と合同での防災訓練を実施する学校が増えた。

● 地域と連携した活動を通じて、地域に貢献したいと願う子どもが増加した。

● PTA行事にて親子防災学習を行ったところ、終了後にハザードマップを理解していなかった保護者が「対策や備えを知りたい!」と殺到した。家族ぐるみで防災意識を向上させ、マンネリ化していた学校行事の改善にもつながった。

● 令和元年東日本台風接近時に、「御用聞き」による学校訪問時の助言(地域特性)が大変役立ったという声が届いた。

● 活動を通じて「御用聞き」の考え方や行動も変容した。防災士資格を保有する男性「御用聞き」は、「防災訓練・教育にもっと取り組むべき」という考えから「まずは先生と相談だ」と、防災にも詳しい「学校の理解者」へと考え方が変化した。また、「学校の理解者」として関わる保護者世代の女性「御用聞き」は、訪問を継続していく中で防災・減災を学ぶ必要性を実感し、自らの意思で防災士資格を取得した。

学校防災教育を皆で支える支援体制の構築が、連携の必要性を再認識させ、安心・安全なまちづくりのために大人も子どもも自分に何ができるかを考え、行動しようとする地域一体での防災意識の向上にもつながっています。

図-4 「御用聞き」や防災共育サポーター
       による長岡市立の小・中学校での
       防災教育支援の様子
図-5 過去7年間の長岡市立の
       小・中学校サポート件数と現場の声

■5.おわりに

当法人のコーディネートをきっかけに、学校と人や団体が関係性を取り戻したり、新たなつながりも生まれ始めたりもしています。また、長岡市での取組を他地域の特性にチューニングし、新潟県他市への水平展開も開始しています。

学校教育が「地域とともにある学校」と「学校を核とした地域づくり」を両輪で進めていく現在の流れは、学校・地域・家庭の“共”育として防災・減災を根付かせていく絶好のタイミングだと考えています。

新潟県中越地震の被災地である長岡市における学校と地域が連携・協働して災害を知らない子どもたちへ経験をつなぎ、安心・安全で持続可能な人づくり・地域づくり・まちづくりを目指す取り組みが、同様の課題解決に取り組む自治体や団体様にとって、ほんの少しでも参考になれば幸いです。

 ↓さらに知りたい方はこちら 

・NPO法人ふるさと未来創造堂 https://www.furusato-mirai.org/