日本の河川災害対策(3) 流域治水

日本の河川災害対策(3) 流域治水日本の河川災害対策(3) 流域治水

わかり易い土木 第34回 河川の話
日本の河川災害対策(3)

アジア航測株式会社事業推進本部
社会インフラマネジメント事業部
大友 正晴

前回まで「流域治水」がなぜ行われるようになったか、考え方などをお話しました。今回は、国が進める流域治水の具体的な内容について勉強してみましょう。

  • 国などが行う「流域治水」対策

国などでは、これまでの河川、下水道、砂防、海岸等の各管理者が主体となったハードな対策など、河川区域の氾濫域中心の対策から、国・都道府県・市町村、企業・住民など流域のあらゆる関係者による治水対策を、河川区域や氾濫域のみならず集水域を含めた流域全体で治水対策を実施する「流域治水」に転換しました。国ではその治水対策として、

①氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策

②被害対象を減少させるための対策

③被害の軽減、早期復旧・復興のための対策

をハード・ソフト一体で多層的に進めるとしています。ではそれぞれについて説明していきます。

  • 氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策

(1)本川での対策

先ずは、これまでも行っていたことで、利水ダムの事前放流や河道掘削、ダム建設などがあります。これらは、河川の水位低下を図るもので、今まで以上に推進することが求められています。

新たな対策としては、支川での流域対策を推進すること、これを多くの支川に拡大することで、本川の水位低下に寄与するものがあります。

(2)支川での対策

支川での対策には、次の対策が考えられています。水田貯留、ため池貯留、調整池などで本川への流出を極力減らす、遅れさせる対策がその一つです。例えば水田地帯では、大雨時に一時的に水を貯める貯留機能がありこれを田んぼダムと言っています。田んぼダムは、自ら地域を水害から守る自主防災の取組であり、新潟県では約15,000haの大規模な面積を使って実施しているそうです。これらは、新しい取り組みではなく昔から行われてきたものですが、今まで以上に積極的な実施を求められている事の現れと思います。

(3)被害対象を減らすための対策

集落を堤防で囲む輪中堤もその一つです。これらも、昔からある対策で、木曽三川と言われる岐阜県南部・三重県北部、愛知県西部にわたり発展してきた輪中は有名です。右の写真は、令和元年の台風19号による長野県中野市古牧地区の水害の状況を捉えた写真です。輪中の集落は水没を免れています。一方、その下にあった水田に氾濫しています。このように、一部氾濫は許容しても、集落の家屋への浸水を防ぐという考え方です。

また、水害リスクが高い区域での土地利用規制や安全な地域への移転、宅地の嵩上げなども対策として進めることが求められています。国では、水害に限らず災害危険区域(がけ崩れ、出水等)、土砂災害特別警戒区域、地すべり防止区域、急傾斜地崩壊危険区域を災害レッドゾーンとして開発許可を原則禁止、市街化調整区域で浸水ハザードエリア等に含まれる区域においては開発許可を厳格化する開発の抑制を行うこととしました。さらに、立地適正化計画においては、居住誘導区域から災害レッドゾーンを原則除外し、居住誘導区域内では防災指針の作成を規定されています。

これらとは別に、本川との合流点におけるバックウォーター対策、排水機場の整備なども進められています。バックウォーターとは、支川が本川に合流する合流部において、本川水位が通常よりも上昇している状態であると、流水が支川から本川に流れ込む時に、壁に突き当たるように流れを阻害され、行き場のない流水が溢れ出す現象のことです。また、下流の川幅が狭くなりその上流側で水が溜まり溢れ出す現象もバックウォーターです。バクウォーターにより堤内地(堤防を挟んで河川と反対にある市街地側などのこと)に内水氾濫に繋がってしまいます。

バックウォーター対策としては、築堤や堤防の嵩上げ・強化、河道の掘削、合流部の水門・排水機場の設置などのハード対策と、平時からの「ハザードマップの認知・理解度の向上による住民の防災意識の醸成」、「災害発生時の避難方法(場所、経路)の周知、避難訓練」などのソフト対策が考えられています。とくに、リアルタイムな情報提供は重要な要素の一つです。

◆立地適正化計画とは
「まちをコンパクトにする」計画のことで、都市計画区域内に「居住誘導区域」や「都市機能誘導区域」を定めこの区域内に居住や都市機能を誘導する計画のことです。
◆防災指針には何が書かれるか
避難路、避難地となる防災公園、避難施設等の整備、氾濫の防止や制御のための水災害対策、高台や民間ビル等を活用した警戒避難体制、水害等に対応した土地区画整理事業等の防災計画及び災害レッドゾーンにおける開発等への勧告・公表基準、災害ハザードエリアからの移転促進等居住誘導区域外等の安全確保策が記載されている。

本川や支川の川幅が下流で狭くなると流れにくくなり、逆流して溢れることにより、堤防の決壊などを起こす場合があります。

本川の水位が高いなどで支川からの流出ができないと逆流したりして溢れて内水氾濫など起こす場合があります。

大雨でマンホールから水が噴き出すのもその一例です。

バックウォーターの発生メカニック例