お城における土木の話(5)
アジア航測株式会社事業推進本部
社会インフラマネジメント事業部
大友 正晴
今回は、お城と言えば石垣と誰もが思い浮かべると思います。先ずはその石垣の積み方についてです。
- 石垣の歴史
石垣は世界中どこでも造られて来ました。ヨーロッパなどでは、お城の壁はもちろんのこと、家・館を造るのにも石が使われて来ました。
一方、日本では石より木材の調達が容易であったこと(温暖で多雨のため)で家屋は木造が主体でした。しかし、日本は傾斜地が多く畑や田んぼを造るためや、家屋を建てるために石を積んで平地を造る必要がありました。今でも山間地などに行くと段々畑や家屋の建つところに石が積まれているのを見かけます。小田原の石垣山(秀吉の一夜城で有名ですね)の山には、石垣が多数見られます。
これらの石垣は、川や山に転がっていた石を持ってきてそのまま簡単に積んでいるように見えます。そのため崩れやすいものでもあります。その後、お城の石垣等で石を積むうえで簡単に崩れない積み方が工夫され積み方も発展してきました。
- 石垣の積み方
始めに石垣の積み方には、空積みと練積みがあります。練積みとは、石をコンクリートやモルタルを使って接着した積み方で、現在多くの石積みで見られる工法です。一方、空積みとは接着剤を使わずに、石を積み上げる工法で、お城の石垣はみな空積みでできていました。
それでは、石垣の積み方は以下の積み方が代表的です。
野面積:自然石をそのまま築石として積む工法のこと。自然石なので形が不ぞろいであるため、どうしても石と石の間に隙間ができます。そのため、敵に上られやすいという欠点があります。一方、隙間があるため排水性に優れ頑丈であると言えます。隙間を埋めて積みやすくするために調整材として間詰め石(懐石)をはさみクッション材としての機能により強度に貢献しています。
穴太積:野面積のことですが、とくに穴太衆が築いた石垣の事を指します。穴太衆とは、近江の国、比叡山山麓坂本の穴太の里に暮らしていた石工の事です。古くから石工としての技術を持つ職人集団で、穴太積みは堅固で織豊時代には城郭の石垣構築に引っ張りだことなっています。
打ち込み接ぎ(うちこみはぎ):石の加工技術が始まると、自然石の角を削ったり面をたたくなどして石同士の隙間をできるだけ減らすことができるになりました。石のかみ合わせがよくなったことで、野面積みより高い石垣が築けるようになりました。関ケ原の戦い前後から多く使われたと言われています。
切り込み接ぎ(きりこみはぎ):さらに石垣加工技術が向上して築石を密着するように加工して積み上げる工法。石が密着しているため、地震などで石が割れたりすることもあり、強度的に優れているとは言えないが、見た目は美しい積み方であります。大坂の陣のあとに普及したとのことです。
これらが石垣の代表的な積み方です。これらが石の加工技術の発達に伴うものでしたが、積み方の形状で次の工法もあります。
布積み:築石の大きさ、かたちを方形に揃え横一列に通るように積み上げる工法で整層積みとも呼ばれています。目地が通ることから強度的に問題があります。
乱積み:形や大きさの不ぞろいの築石を不規則に積んだ石積みの事。乱層積みとも言い、布積みの発展型と言われており、目地が通らないので布積みより崩れにくいと考えられる。
ここまでは一般的によく知られた石垣の積み方でした。石垣の積み方には他にも種々あります。私が、石垣に関わる仕事をした際の石垣の師匠と言える方にいろいろ教わりました。その師匠と小田原城の石垣を見ていた師匠から「甲州積みがありますね。」と言われました。甲州積みとは、言葉通り甲州つまり武田家に伝わる石垣の積み方です。特徴は、小さいアーチ状に石を積むものです。小田原城は、もともとは後北条氏の城として構築された城ですが、家康の関東入府と共に本多氏が入城しています。おそらく武田家の旧家臣が徳川家や本多家に仕え甲州積みをする石工などを連れてきて石垣の修復や構築をしたのではないかと想像されます。
- 出隅・入隅
石垣の積み方で特徴的なところがあります。お城の石垣を構築する上地形等に合わせるために角ができます。この角で突出・出っ張ったところを出隅、この反対に凹むようになったところを入隅と言います。実は、この曲がり角・隅は構造的に重要で、ここがいい加減だと石垣は崩れやすくなります。そこで、出隅には、算木積みと言って長めの石を交互に積む工法が使われるのが普通です。
右の写真は小田原城中堀で復元された銅門に向かう土橋部分の石垣です。左側の白丸が出隅で算木積みが確認頂けると思います。算木積みは、ゲームのジェンガの重ね方が算木積みと同様で参考になります。右側の白丸は入隅です。
熊本地震で話題となった奇跡の一本石垣は、出隅の算木積み部分が残ったもので、構造的に頑丈だったことが証明されたと思います。
以上、石垣の積み方についてお話しましたが、次回でもう少し構造などの話にて最終回とします。