どのような仕事をされているんですか?
主に地震防災に関するソフト系・計画系の業務を行っています。国内だけでなく、海外での仕事も担当しており、仕事だけではなく研究や学会活動もやっています。
まずは国内での仕事内容をもう少し詳しく教えてください
GIS(地理空間情報)やテキストデータなどを使って防災を定量的に評価分析し、自治体の防災計画や避難計画を検討したり、災害時に救援物資をどうやって効率的に配送するかという計画を立てたりするなど、防災に関するさまざまなソリューションを自治体に対して提案しています。
日本では地震や豪雨など自然災害が多くなっていますから、事前に備えるための計画づくりは、被害を少なくするためにとても大切ですね。海外のことも聞かせてください。
2015 年にネパールで大きな地震が起きた時は、現地での被害調査に加え「Post Disaster Needs Assessment」いう復興のための会議に参加するなど、現地に 2、3 カ月滞在しました。
ASEAN では各国の防災担当を招いたフォーラムを開催したり、各国を回って防災対策に関するワークショップを開いたりしたこともあります。
防災関係の仕事が中心ですか。
そうなんですが、防災って価値が分かりにくくないですか? だって、何もない時は防災があってもなくても通常の暮らしができますからね。だからこそ、いざという時に誰かを守ることができる計画を作りたい。コンサルタントとして、その責任感を持ち続けないといけないと思っています。
研究活動もされているんですよね。
はい。社内に「EJ イノベーション技術センター」という研究組織があって、そこで防災関連の研究を進めています。大学でも協力研究員として研究を行っています。
就職したら会社の仕事ばかりというわけじゃなくて、大学の先生との研究もできるんですね。大変そうですが、楽しそう! 大学ではどのような活動をされているんですか。
「防災を定量的に評価し、可視化する」ということを研究テーマとしており、それが仕事にも生かされています。その他、災害が発生後には被災自治体に入って災害対策本部に運営のアドバイスをしたり、現地調査や検証などのサポートを行ったりしています。また、土木学会やアジア土木学協会連合協議会などの学会でも幹事長として活動しており、研究成果や日本の取り組みを対外的に発表することもあります。
「土木」ってインフラを作ったり、修理したリ、「The モノ」のイメージでしたが、井上さんのお仕事はイメージからかけ離れています(–;)。
「計画」「調査」「災害対策本部の運営のアドバイス」などは「コト」ですね。ちなみに大学の専攻は? 土木工学科です。 その学科名も「The モノ」のイメージですが? ですよね。だけど専攻は政策・計画コースでしたから。
(**)!! 土木系に政策を研究する分野があるなんて知りませんでした。すみません。
いえいえ。モノづくりに焦点が当たることが多いので、キラドボさんが知らなかったもの仕方ないですよ。ただ、土木工学は英語では「Civil Engineering」、即ち「市民・公共のための工学」ですから、モノづくりだけでない広範の分野を扱っています。
ちなみに大学院では国際プロジェクトコースに所属し、レンガや石でできた組積造建物と呼ばれる建物の耐震性を高めるための政策を研究しました。組積造建物はネパールやイランなどで多く使われていますが、耐震性が低いので地震で大きな被害が出やすいんです。その時の研究が今の仕事にもつながっています。
「災害からみんなを守りたい」という熱く優しい思いがいっぱいですね。この仕事を選んだのは、その思いを実現できると思ったからですか。
そうかもしれませんね。大学に入った当初は電気自動車や燃料電池の研究を目指していたんですが、専攻を選ぶ大学 2 年の時にフラっと立ち寄った「旧新橋停車場 鉄道歴史展示室」で進路が変わりました。
知識も資金も十分にない文明開化の頃の日本に「お雇い外国人」としてやってきたエドモンド・モレルというイギリス人がいて、「日本のために」どうするかという視点で鉄道インフラの整備に尽力されたことを知りました。人材育成のために、東大工学部の前身の1つとなる学校も建設したんですよ。素敵だなぁって感動しました。
当時は海外の力をもらって日本が発展した。だったら、今後は逆に他の国に恩返ししたい。じゃあ今の日本に何ができるか、日本の強みは何か、と考えた時に防災なら役に立てると思ったんです。私の恩師である東京大学の目黒公郎教授がまさにそのような活動をされており、その影響も受けています。
そのお話を聞いて、キラドボも感動しました。思いを実現している井上さんも素敵です。そんな井上さんの印象に残っているお仕事を教えてください。
東日本大震災の後、被害状況の調査のために現地に行って、消防団や自治会長などの方々にインタビューをした時のことです。あの悲惨な景色は今も思い出されます。
でも辛いことばかりではありません。被災地の宮古市ではその後、新しい津波避難マップや避難所運営マニュアルなどを住民の人と一緒に考え、一緒に作る仕事に携わりました。現地の人との触れ合いが一番多い仕事で、やりがいがありました。
コンサルタントの仕事は、地域の人や役所の人と一緒に問題を解決するところが醍醐味です。それに日本中、そして世界中いろんなところにも行けます。たくさんの人に出会い、いろんな景色を見て、おいしいものを食べる。そうした経験も面白いですね。
地域を知るほど「災害からみんなを守りたい」思いが強くなりそう!
そうなんです。地域を守るためにどうするか、というマインドに自然となります。人とのつながりは、必ず次の何かにつながる。だから一期一会を大切にしています。
学生や若手に一言お願いします。
海外志向の若手が減っている気がしますが、ぜひ海外に行って経験をしてほしい。人生の幅が広がりますよ。