NPO法人エコロジー夢企画 理事長
三井 元子
この度、『花畑運河の今昔』という本を発行いたしましたのでお知らせいたします。花畑運河は、大正8年に制定された「都市計画法」によって開削が決定された運河です。計画から竣工にまで至った全国7つの運河の中でも、唯一、新規開削によって通水した運河です。他は改修や埋め戻しによる運河でした。
■花畑川の魅力
足立区の北東のはずれに流れる花畑川は、中川と綾瀬川をつなぐ舟運路として昭和6年に完成した全長1,485mの運河です。川幅が33m、水面幅は31mあり、足立区の中小河川としては、広々とした穏やかな水面を有し、最近では透視度が100㎝もあるほど水質が良くなってきています。開削当時、花畑川は景色が良いので、観光にもなると期待され、運河にかけられた3つの橋は、その宣伝もかねて、その名も美しく、月見橋、雪見橋、花見橋と名づけられたそうです。
花畑川は、市民活動をするにはちょうど良い川幅を有し、穏やかでのびのびした雰囲気を持っていました。ここでボートやカヌーに乗れたら、安心で楽しいだろうなあと思いました。この水面をまちづくりの活かすことはできないだろうか? と考え、エコロジー夢企画では、(公益信託)あだちまちづくりトラストの支援を頂いて、2017年~2019年、神明南の足立区立第十三中学校と協働して「花畑川を活かしたまちづくりの推進」という総合学習を3年間実施しました。中学2年生対象で年4回の公開授業としました。
花畑川の歴史・文化や水害の歴史、川まちづくりについて国土交通省の元局長や江戸川区土木部長、ソトコト編集長の指出一正さんなど、最前線で活躍している方たちを招いて学び、10人乗りのEボートに乗って川の生き物やごみを観察しました。誰がどのようにして、川をまちづくりにつなげていくのかということをグループディスカッションして発表し合いました。このワークショップには、CNCPのインフラメンテナンス国民会議市民フォーラムにも手伝いに来ていただいたことがあります。
その結果、3年目の生徒代表が、先輩たちの思いも込めて、「花畑川はこの町に住む私たちが守る!
私たちがこの町を変える」と宣言してくれたのです。
ところが2019年、足立区は現在31mある水面幅を約半分の17mにして、護岸を切り立たせるという案を出してきました。両岸に8mの遊歩道を作って河津桜を植えるというのです。両岸に桜並木を配する案に反対しているわけではありませんが、8mと言ったらゆったりした2車線道路幅です。繁華街でもないのにそんな立派な遊歩道が必要でしょうか。
花畑川は東京湾に近いので潮の影響を受けて干満の差があります。ですから満潮の時は、水面幅が31mにもなって、広々した雰囲気になります。干潮でも29mあります。ところが17m幅にして護岸を切り立ててしまうと、水面幅はほとんど変わらず貯留量も半分になってしまうのです。遊歩道を立派な8m幅にしてしまうことで、現在約43,400㎥ある貯留量が、約22,400㎥になってしまいます。これは景観だけの問題ではなく、近隣に住んでいる方たちが、今まで受けていた陸と水面との温度差による恩恵、つまり朝夕の涼しい風の量も半減するという事なのです。しかも近年激甚化している降雨量を考えると、貯留量を減らすのは得策とは思えません。もっと花畑運河の歴史を踏まえ、特徴を活かした川づくりで、まちを活性化できるように理解を深められないものでしょうか。 エコロジー夢企画では、2021年が通水90周年であったことから、水門に横断幕を掲げさせてもらい、シンポジウムを開催するなどして、歴史を周知するよう努力しました。
実は、これまでに花畑運河に関するまとまった資料がなかったため、足立区は「花畑川に文化的価値はない」と言いはっていたのです。ところが調べていくと近代初の都市計画法による新規開削運河だということがわかりました。明治44年から始まった荒川放水路建設に伴って中川舟運の渋滞が見込まれたことから、中川と綾瀬川を繋ぐバイパス運河として開削されたということもわかりました。ですから2024年に通水100周年を迎える荒川放水路の歴史・産業遺産ともいえるのです。
この本を活用してもっと川まちづくりの知識が広がるようにと、国会図書館、都立図書館はもとより、足立区のすべての小中学校に寄贈しました。
土木工事を計画するときには、その土地の歴史・文化を調べてから、景観を決めていくことが大切だと思います。また近年の気候変動を考慮して、安全なまちづくりにつながるような計画が求められます。
※『花畑運河の今昔』は、1,650円(税込)送料370円で購入できます。
エコロジー夢企画にお申し込みください。 info@ecoyume.net