わかり易い土木:第29回 土木と災害対策 第1部

わかり易い土木:第29回 土木と災害対策 第1部わかり易い土木:第29回 土木と災害対策 第1部

わかり易い土木:第29回
土木と災害対策 第1部

NPO法人 州都広島を実現する会 事務局長
シビルNPO連携プラットフォーム 理事
野村 吉春

はじめに

「わかり易い土木」シリーズとして、近年大きな災害に度々遭遇している広島在住の現地住民の立場から、「何かリアルな話題提供を」という要望に応えて、凡そ3回くらいに分けて「災害対策」について書かせていただく予定です。

■「災害対策」とは何か?

しかし、読者の皆さん、そもそも「災害対策」・・って、何でしょうか?

「何かリアルな話題提供を」と言われてもですね、そこら辺について一旦、頭の整理をしたうえで捉えないと筆が進みません・・・どうか、その辺へのご理解をお願いします。

そもそも、「災害対策」の論文やレポートなどの情報源は山ほどあります。これらの情報を編集して数枚のレポートに纏めることは、その昔コンサル業をやっていた者なら、誰でも出来るのですが、それではCNCPの読者に失礼だと思います。

■中央防災会議の基本計画

とは言え、まずは最も標準的な文献として、令和3年5月の中央防災会議で編纂された「災害基本計画」(全330ページ)の目次構成を、右の表に紹介しておきましょう。これを見れば、「災害対策」の凡その全体像が理解されます。

◆一つ目の切り口として、

まずは時系列として、①災害予防、②災害応急対策、③災害復旧・復興対策という3つの、「どの時点に焦点を当てるか」という選択肢が有ります。

◆二つ目の切り口として、

次に災害の種類について、①地震災害、②津波災害、③風水害、④火山災害・・・全13種類の災害対策に区分されており、災害の内容は大変多岐にわたることが理解されます。

■私の体験に照らして

ここから先は、他人の文献ではなく、自分の体験をもとに述べます。 現役時代にコンサルタントを経て、現在NPOをやっていると、「災害対策」に関して、表の(*)印に示すような経験を経ています。その代表例を次ページに8件ほど挙げておきましょう。

まあ、「色々な仕事が有るものだ!」とのご理解を頂ければ、それで十分です。

◆災害対策の事例紹介(抜粋)

体験事例簡単な説明
①島根県の江の川下流部の流域災害対策2018~2020年豪雨に伴う、4市町への度重なる「流域災害」の発生で集落の集団移転への問題提起。(議会への提言*1*5*3)
②広島・岡山県下での中小河川への逆流対策2018年の西日本豪雨災害で、多発した本川から中小河川への「バックウオーター現象」への問題提起。(議会への提言*1*5)
③広島土砂災害の復興プランを発表2014年に広島市安佐南区を襲った「広島土砂災害」の復興プランを発災の3日後に発表し、市議会議長室に掲示した。(この詳細は次回に紹介します *3*5*8)
④岡山県の特別史跡「閑谷学校」の水害・防火対策江戸時代中期の岡山藩が日本初の公立学校を創立。土木巧者の津田永忠による洪水や山林火災から校舎を守る「水害+防火壁」は芸術品の領域。(2006年の学会全国大会での研究発表*1*15)
⑤長野・岐阜県境の中部縦貫道の雪寒対策1997年、冬季の半年間通行止めのアルプス越えを、通年通行にする「無散水融雪工法」で事業化。(世界一の規模を誇る*1*6*8)
⑥三重県尾鷲市の灯台の維持管理対策1995年、太平洋の絶海の孤島への、灯台の保守点検へ「海上保安庁の船舶着岸~島への上陸~点検路等」の整備。(*3*7)
⑦山陰西部地域の災害に強い地域づくり1983年に島根県の西部地域を襲った豪雨災害に対する「広域的な生活再建」などの提案。国・県・市町の委員会業務。(*1*5*8)
⑧兵庫県の揖保川・加古川の災害復旧工事1976年播磨地域を襲った台風で堤防、護岸、井堰など中小30か所の復旧工事の「現場技術業務」。(監督の代行*3*5)
(注記) 青文字の*印は前頁の基本計画に対応しています。

◆災害対策の事例マップ

■土木と災害対策

全国建設業協会は、自治体との間で「災害協定」 を締結して、発災時の応急対策や復興事業に関わっているが、マスコミから報道されず、世間からも注目されない。つまり、「災害対策=土木の出番」と言っても、盛り上りを期待できないようです。

そこで目線を変えて、近所の防災活動を見ると、町内会や自治会での「避難訓練」や、校庭に消防車を呼で「消防訓練」を見学したり、「河川や水路の清掃」の定期的な実施作業や、「広島土砂災害」の被災地では、毎年8/20に慰霊祭が行われています。

他方で、全国的な防災活動を見ると、日本防災士機構が実施している「防災士」の資格者が既に23.4万人もいらっしゃる。 これは土木学会の3.8万人に比べてはるかに多く、全国の各地域で防災活動や研鑽に励んでおられる。

しかし、我々CNCPは前掲の方々と、十分なつながりを持っていません。つまり、「災害対策=土木の出番」という意識だけでなく、幅広い繋がりが求められています。

■地球環境から考える

「災害対策」を根源的な問題から考えるなら、近年は自然災害の多発化、そして激甚化が指摘されているように、50年に一度の災害が、毎年、日本の何処かで発生しています。つまり我々は、「地球環境の問題」から考えるべき次元に入っています。

これは「地球の温暖化」、特に酷暑に伴う海面温度の上昇で、高温多湿の気流の発生というメカニズムに向けて、我々はあらゆる手段をもって、「地球の温暖化」の抑止が、世界共通の課題となっていることはご存じのとおりです。

つまり、土木人は災害ごとの即物的な対応だけでなく、「地球環境」という根源的なストーリーテリング(物語)にもとづく、努力と行動が求められています。

■日本の未来に向けて

コラムの締めとして、「我国はこの21世紀末まで続く人口減少下に、どんな『防災対策』をもって国土経営を行うべきか?」 3つの私見を述べて第1部の終わりとします。

適散・適集の国家経営・・・2100年には日本の人口は4000~5000万人と予測されるなかで、現在の東京圏の人口3800万人(コロナ後もなお増加中)。この間に体験する首都直下型地震、江東5区の大水害、富士山の噴火‥といった災害を視野に「この国のかたち」をどう最適化するべきか、これが最も重要だろう。

自然に順応した暮らし・・・災害の予測される危ない場所は「非住居地域」に指定し、ハザードマップで赤色(危険地域)には住居を構えない。今より大きなダム、大規模な堤防作りといった巨大事業は、これは賢い選択ではない。

リダンダンシーな再配置・・・都市の基幹施設、大規模工場、交通通信施設、エネルギー基地などは、常日頃から代替機能を発揮できるよう再配置する。そのくらいの大事業をしないと、日本の未来は更なる貧乏国への一直線でしょう。