つなぐ活動 地域の活力の源「人」を育てる「ほっかいどう学」

つなぐ活動 地域の活力の源「人」を育てる「ほっかいどう学」つなぐ活動 地域の活力の源「人」を育てる「ほっかいどう学」

地域の活力の源「人」を育てる「ほっかいどう学」

NPO法人 ほっかいどう学推進フォーラム 理事・事務局長
一般社団法人北海道開発技術センター 理事/地域政策研究所長
原 文宏

活力ある地域とはどんな地域でしょうか。人口減少が他の地域よりも早く進行することが予測されている北海道。北海道には世界に誇る魅力があふれているはずですが、そこに住まう人々が地域に誇りと愛着をもち、育てていかなければ地域の魅力は低下し、活力は失われていきます。わたしたちNPOほっかいどう学推進フォーラムが推進する「ほっかいどう学」とはそんな地域の活力の源となる「人」を育てる活動です。

ここからはほっかいどう学の核となる活動を3つご紹介します。

1)ほっかいどう学通信、インフラツアーの開催

ほっかいどう学の重要なキーワードの一つが「インフラ」です。北海道が世界に誇る魅力である自然や食、観光。これらを支えているのは道路、河川、港湾、鉄道をはじめとするインフラです。これらのインフラ(土台)の開発、維持なしには人々が住まうことも、外から人を呼び込むこともできません。このことは言われてみれば当然ですが、特に子どもや若者にとっては生まれたときから舗装された道路や防波堤などのインフラが当たり前に存在しているため、その価値に気づきにくいと考えられます。皮肉なことに大きな災害が起こって初めてインフラの存在や価値を知る、ということも。こうした北海道を支えている文字通り“縁の下の力持ち”であるインフラの価値にスポットを当てることが私たち「ほっかいどう学」の一つの役割だと考えています。

そのための活動の一つが「ほっかいどう学通信」と名付けたニューズレターの発行です。JR北海道の車内広告紙の特集を長年執筆されているノンフィクションライター北室かず子さんによる入念な取材と文献収集により、毎号読み応えのある内容になっています。これまでに阿寒横断道路、石狩湾新港、北防波堤などをテーマに執筆いただいていますが、これら北海道の代表的なインフラの歴史が紐解かれ、現代における価値を改めて我々に教えてくれます。現在は会員向けに年3回発行していますが、今後は季刊誌に育てていく計画です。

▲北海道の魅力や地理、歴史、文化、産業等を伝えるニューズレターの発行

他にも知識だけでなく、体験としてインフラの価値を感じていただく活動として、「ほっかいどう学インフラツアー」を開催しています。この企画は主に学校教員の方を対象としたもので、実体験を通じた学びや、事業に携わる人々から直接話を聞く意義は大きく、北海道遺産石狩川を巡るツアーに参加した教員の先生からは、「故郷北海道がより好きに、そして誇らしく思えた」、「どの学年でどの単元でどう教材化するか。石狩川にかかわる魅力は尽きません」といったご感想をいただきました。ほっかいどう学インフラツアーは毎回10~20名程度の小規模なツアーですが、こうした地道な活動の積み重ねが北海道の将来を支える人材育成につながるものと確信しています。

▲ほっかいどう学インフラツアー  左:海道遺産石狩川を知り尽くす旅
                 右:砂子炭鉱露天掘&新桂沢ダム 現場視察

2)ほっかいどう学教材の開発

ほっかいどう学のターゲットは大人だけではありません。私たちには将来の北海道を担う子どもたちにももっと北海道のことを知ってもらいたいという想いがあります。

学校で地域のことを学ぶ教科といえば主に社会科になりますが、教科書と併用したり、場合によっては教科書よりも中心的に使われている教材に「副読本」があります。現在は道内で179ある市町村の教育委員会がそれぞれ独自の副読本を作成し地域学習を行っています。一方で、あまり知られていませんが、北海道以外の多くの都府県では市町村単位の副読本以外に、〇〇県、××府といった都府県単位で地域を学ぶための一冊が存在します。実は北海道にもかつて「わたしたちの北海道」という副読本が作成されていましたが、学習指導要領の改訂とともに自治体単位の副読本に置き換わってしまいました。北海道は他の都府県と比較して広域であり、学ぶ内容も多くなるかもしれません。しかしだからこそ、身近な地域だけではなく、俯瞰的に北海道を学んでほしいと考えています。そのための足掛かりとして、私たちは現在、全道各地の副読本を収集し、その内容を調査・分析しています。北海道ならではの地域学習の在り方を学校の先生方と一緒に検討し、ゆくゆくは改訂版副読本「わたしたちの北海道」の開発につなげたいと考えています。

▲社会科で使われる副読本の調査

また、もう少し直近で実践的な活動として「デジタル教材」の開発があります。今学校では「GIGAスクール構想」の名のもとに、全ての小中学校で1人1台端末を活用した学習が始まっています。コロナ禍もあり一気に校内通信ネットワークなどの環境整備は進みましたが、肝心の学習教材の開発は追い付いていません。私たちはこれをチャンスと捉えています。というのも、例えば、高速道路で見かける矢羽根や、雪道の除雪車など、北海道ならではの学習素材は多種多様にありますが、専門的な内容も含まれるため、どうしても学校の先生だけで教材化するのは難しいという課題があります。そこで、私たちNPOがそういった学習素材をデジタル教材化するお手伝いができるのではないかと考えています。既に昨年から上川管内の小学校で先生方と一緒に動画づくりに挑戦していますが、これからビデオクリップの製作など、トライアルを重ね全道各地に展開していく計画です。

▲「道路」を題材とした授業で使用する開発局職員へのインタビュー動画づくり

3)シンポジウム・セミナーの開催

もう一つほっかいどう学の核となる活動をご紹介します。ほっかいどう学を推進していくためには、行政・学校・地域・企業の方々との連携が大切だと考えています。これらの組織は本来それぞれの活動を推進する上で、他の組織と深く連携していく必要がありますが、実際は学校も行政も企業も地域も、外から見ると閉鎖的で何をやっているのかわからない、というのが現状ではないでしょうか。わたしたちNPOはこれらの組織を繋ぐプラットフォームとして設立されましたが、イメージとしては「土台」というよりも、それぞれの閉じられたドアを開け、仲良くなって、他の組織の人々を招き入れる「仲介役」に近いかもしれません。そしてこの「仲介役」として最も典型的な活動がシンポジウム・セミナーの開催です。ここ数年は社会的に人との交流が難しい時期ではありましたが、オンラインも併用しながら活動を継続しています。シンポジウムは年1回130名近くにご参加いただき、幅広いテーマで基調講演、パネルディスカッションを行っています。セミナーは「ほっかいどう学連続セミナー」と銘打って道内各地で年2回開催しています。各地域から講演者を選出し、地域を支えるインフラの魅力を発信していただき、組織を超えて交流を深め、学び合う場となっています。特に学校の先生方は多忙で学校の外の世界を知る機会が失われているということを耳にします。お一人でも多くの先生方に参加いただき、学校の外に広がる北海道を知ってほしい願っています。そして、こうした人的交流の輪が広がることで、これまで紹介した教材開発をはじめとする他の活動もより充実したものになっていくと考えています。

▲行政・学校・地域・企業が一同に会するシンポジウム・セミナーの開催

●私たちは、土木学会インフラパートナー団体の仲間です。