泳げる荒川の復活をめざして

泳げる荒川の復活をめざして泳げる荒川の復活をめざして

「泳げる荒川の復活をめざして」
 ―あらかわ遠泳プレ大会―

NPO法人あらかわ学会 副理事長
三井 元子

 明治43年の東京大水害で壊滅的な打撃を受けた国は、ついに隅田川から分岐する放水路開削を決定し、翌年から土地の買収や測量に着手。大正13年(1924)10月12日、荒川放水路工事がほぼ完成し、北区志茂で「荒川放水路通水式」が開催されました。工事はそれから5年延期され、1929年(昭和5年)②関連する工事を終えて完工しました。

19年もの歳月をかけて行われた工事は、エキスカベーターという近代的な大型機械を入れて、平らな大地を削って、土を積み上げては横移動して土手を形作っていきます。トロッコに土を乗せて線路上を運ぶ人夫さん達の様子を見守る子どもたち。夕方になって作業が終わると、こそこそと子ども達が現れてトロッコに乗って遊んでいたそうです

 10月12日、全長22m、堤防から堤防までの距離(川幅)500ⅿの河川敷に幅約200ⅿの深い溝が掘られ、そこに一気に水が流れ込んできたのす。その時の人々の興奮が、眼に見えるようです。 さて、突然現れた大河で人々はなにをしたのでしょうか? それは、「レクリエーション」です。 川で泳ぎ、貸しボート屋で借りたヨットや手漕ぎボートで水面を楽しんでいました。なんて伸びやかな時代でしょう。

ここに私の父が持っていたアルバムが一冊あります。30ページにも及ぶそのアルバムには、放水路にできた水練場の写真で埋め尽くされています。 私が小学1年生の頃、「ここに水練場があって、昔は泳げたんだよ」聞き、びっくりしたのを覚えています。「こんな汚い川でどうして泳げたの?」と不思議でたまりませんでした。

 私が小学校1年生の頃は、高度成長期だったので、荒川沿川の下町にはたくさんの工場が立ち並び、煙突から煙を出していました。吉永小百合主演の「キューポラのあるまち」が有名です。工場から流れ出る廃液で、川の水は汚れて、葦の繁る水たまりに滞留し、悪臭を放っていました。

長じて、平成6年(1994)の荒川放水路通水70周年の頃、当時の荒川下流河川事務所所長から、 「三井さん、お父さんのアルバムにあったように通水70周年記念として荒川で泳いでみたらどうですか」 と言われ、水質を調べてもらいました。すると糞便性大腸菌群が5000個/100ml以上もあり、とても無理と分かりました。

それから待つこと30年、荒川下流では、平成8年(1996)から始まった『荒川将来像計画』に基づき、まちの緑との連携を意識したゾーニングが話し合われて、自然再生地の整備が進みました。東京の下水道整備も進み水質は徐々に良くなっていき、水上スキーを楽しむ人さえ現れてきたのです。  

令和6年(2024)度は、荒川放水路通水100周年です。2022年10月、あらかわ学会の呼び掛けで「荒川放水路通水100周年事業市民実行委員会」が正式に立ち上がりました。  私は、父に教えられたお陰で海での水泳には自信があります。5年前からは、那珂川で開催されている「水戸黄門まつり 那珂川遠泳大会」に、夫が主宰している水府流太田派「霞ヶ丘游泳会」の方たちと共に参加して3.5㎞を泳いでいましたので、「泳げる荒川の復活」をするなら今しかない!と思いました。   

今年は、プレ大会として川での泳ぎ経験がある方たちに呼びかけました。コースは満ち潮を活用して左岸の小菅から上流に向かって840ⅿ泳ぎ、右岸の千住虹の広場で上陸することにしました。他の船が突っ込んでこないように監視するパトロール艇2艇、泳者に寄り添う伴走艇2艇を契約しました。(船が決まらないと泳ぐ日も決められないので苦労しました) 9月16日(土)15:00、開会式で荒川下流河川事務所出口所長から激励の挨拶を頂き、いざ入水です。

11人の泳者が次々と川に入り、隊列を組んで泳ぎ出しました。心配していた臭いもなく、特別な味もなく快適でした。想像していたよりも満ち潮の流れ早く、橋脚付近では隊列が乱れましたが、直ぐに立て直しゴールの虹の広場に向かって泳ぎ続けました。伴走船には出口所長を始めスタッフが5~6人づつ乗って応援し、見守ってくれました。虹の広場には、いつの間にか50名ほどの方たちが集まり、手に手にフラッグを持って応援しています。

上陸すると、泳者11名はマスコミに囲まれてインタビューを受けました。 泳いだ後は、千住の老舗銭湯に行ってもらい、北千住の居酒屋で打ち上げ、交流会をしました。感想を伺うと、ベテランの方でも「あまりの大河に、最初は心臓がバクバクした」といっていました。また、「橋を越えて、気持ちよくスイスイしだしたところで終わってしまったので、来年はもっと泳ぎたい」と言う方も。 荒川での遠泳大会が恒例行事となるよう、担い手を募集していきます。あなたも泳いでみませんか?